安倍総理は2014年3月に開催された、経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議において、
という指示を与えました。
女性の就労拡大を抑制する効果をもたらす税制度とは、例えば
を示していると考えられます。
また女性の就労拡大を抑制する効果をもたらす社会保障制度とは、例えば
を示していると考えられます。
前者の配偶者控除については、安倍総理が指示を与えた後に議論が進められていき、従来は103万円以内だったものが、2018年から150万円以内に改正されました。
それに対して後者の第3号被保険者については、あれから約5年の月日が経過しましたが、特に改正は実施されておらず、また議論が進んでいるという話も聞きません。
ただ第3号被保険者に影響を与える次のような議論が、昨年の下半期あたりから話題になっております。
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目次
社会保険が適用される賃金と会社の規模を、引き下げる議論が開始へ
2016年10月から社会保険(健康保険、厚生年金保険)の適用が、従来よりも拡大されたため、次のような要件をすべて満たすと、社会保険に加入することになります。
(A)1週間あたりの所定労働時間(雇用契約書などに定められた労働時間)が、20時間以上であること
(B)1か月あたりの賃金(残業代や交通費などは除く)が、8万8,000円以上(年収に換算すると106万円以上)であること
(C)雇用期間の見込みが、1年以上であること(雇用契約書などに更新の定めがあれば1年未満も含む)
(D)学生ではないこと(夜間や定時制の学生は除く)
(E)従業員の人数が、501人以上の会社で働いていること
以上のようになりますが、この後に(E)の要件が改正されたため、2017年4月からは労使(労働者と使用者)の合意があれば、従業員の人数が500人以下の会社でも、社会保険に加入する必要があります。
ただ社会保険の保険料は、労働者と使用者がほぼ半分ずつ負担するため、社会保険の加入者が増えると、使用者の負担が重くなります。
こういった理由などにより、労使の合意はほとんど進んでいないため、合意されるのを待っていたら、いつまで経っても社会保険の適用は拡大されません。
そこで2018年12月には、(E)の要件の引き下げについて議論する、有識者会議の初会合が開かれるという報道がありました。
また2018年9月には、(B)の要件を「6万8,000円以上(年収に換算すると82万円以上)」まで引き下げる議論を、厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会が開始するという報道がありました。
週20時間以上働くと、誰でも社会保険に加入する「勤労者皆保険制度」
2016年10月に社会保険の適用が拡大されてから、わずか数年しか経っていないのに、新たな改正案が次々と生まれ、その中のひとつが2017年4月から実施されました。
社会保険の保険料の負担増となる使用者の反発などにより、すぐには実現できない改正案もあると思いますが、社会保険の適用が拡大していく傾向は、今後も続いていきそうです。
こういった傾向が長期に渡って続いていくと、最終的にはどのような形になっていくのでしょうか?
そのヒントになるのが、2018年6月に閣議決定された
いわゆる「骨太方針2018」に記載されている、「
勤労者皆保険制度」ではないかと思います。
この制度はもともと、小泉進次郎議員などの若手議員による小委員会が、「人生100年時代の社会保障へ」の中で提言しましたが、週20時間以上働く方は誰でも、社会保険に加入するという制度のようです。
そうなると最終的には上記の(A)の要件だけが残り、(B)~(E)の要件は消滅するのかもしれません。
結果として第3号被保険者は、現在より大幅に少なくなっていきますが、労働時間が週20時間未満の方は引き続き、この制度を利用できる可能性が残ります。
ですから第3号被保険者の廃止よりも、勤労者皆保険制度に備えた方が良いと思うのです。
社会保険の保障が充実すれば、民間保険の保障を低く設定できる
第3号被保険者が社会保険に加入すると、社会保険の保険料の負担が増えて、給与の手取りが減りますが、原則65歳になった時に、国民年金から支給される「老齢基礎年金」に上乗せして、厚生年金保険から「老齢厚生年金」が支給されるようになります。
これに加えて業務外の病気やケガで休職した時に、休職する前の給与の3分の2程度になる「傷病手当金」が、健康保険から支給されるようになるのです。
また万が一の事態が発生した時に、一定の遺族に対して厚生年金保険から、「遺族厚生年金」が支給されます。
このように社会保険に加入すると、老後の保障が充実するだけでなく、病気やケガに対する保障、または死亡に対する保障も、以前より充実します。
そのため民間の個人年金保険、医療保険、死亡保険の保障を、以前よりも低く設定でき、そうすると保険料が安くなります。
このようにして民間保険の保険料の支払いを減らせば、社会保険の保険料の発生で、給与の手取りが減っても、家計への影響は少なくなるため、勤労者皆保険制度に対する備えとして、検討してみる価値があるのではないかと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)