私達不動産鑑定士が土地と建物の評価をするときに賃借権が設定されている場合があります。
不動産鑑定評価上は賃借権は土地と建物全体に対して設定されていると考えるため、評価をする類型を「貸家及びその敷地」とし、あくまでの一体の価格を求め、必要に応じて便宜的に土地と建物の内訳価格を算定します。
一方、税理士さんは土地と建物を別々で計算し、土地は貸家建付地という表現をし、賃借権がついていることで自用地に比べてその利用価値が劣り、
(2) 自用地価格 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合
を控除して求めます。
この(2)部分こそ、アパートなどを建てて貸すことによる土地の評価減の効果であり、相続評価の減額方法の一つとして考えられています。

不動産の評価依頼
ある時、土地と建物が同一所有者に帰属していますが、現状ではその所有者の知人に貸し出されている不動産の評価依頼がありました。
相続における財産価値を把握する目的で、最初に聞いた時には類型はまさに貸家及びその敷地なので土地も建物の評価減が見込めそうでありました。
しかし、知人に貸してはいるものの、その賃料は曖昧で、一応決まった額を所有者の銀行口座に振り込んでいますが、契約書や領収書もなく、そもそも金額が決定された根拠も口約束だけでした。
つまりお互いは、賃料として納得がいっているようですが、それを客観的に証明するものが何もないのでした。
この場合、賃貸借の対抗要件とは違い、鑑定評価上では住んでいるという客観的事実だけでダメで「確認資料」としてその権利の存在の証明を求めます。
従って、この件に関しては、「貸家及びその敷地」としての判断ができず「自用の建物及びその敷地」としての評価をさせていただいたのでありました。
税務署の申告においては、この場合、所有者が不動産所得として確定申告をしているかなどの総合的な判断によって賃借権の存在を確認するようなので、契約書を提出しなければならないわけではなく、また契約書がないからといって貸家建付地として評価ができないわけではありません。
しかし、税務署が異議をとなえたときに、それに対して説明できる資料がないと問題が大きくなるように思われます。

第三者へ売買するときに権利関係を明確にしておける
確かに契約書を作るにもひと手間かかりますが、紙1枚の存在で、相続税が問題なく減額されたりさらなる相続が発生したり、第三者へ売買するときに権利関係を明確にしておけるのでその存在価値は大きいと思います。
新元号を機に作成をご検討してみてはいかがでしょうか。(執筆者:田井 能久)