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ファンド提案でソニー株上昇
米投資ファンド、サード・ポイントは6月13日、ソニーの大株主として同社に対し、半導体部門を切り離すことで映画や音楽といったエンターテインメント事業に経営を集中するよう提案した。
そのほか、ソニーフィナンシャルホールディングスなどの持ち株も売却し、資本構成を改善すべきとも主張している。
これを受け、ソニー株には買いが継続して向かっている。
しかし、なぜ株価が上昇するのか、その背景をイメージできる投資家はそう多くないように感じる。
特に今回のソニーのケースのように、とりわけ赤字事業でもない半導体事業を切り離すことにどのようなメリットがあるのかは、一見するとわかりづらい。
以下、その大きな理由と思われる「コングロマリットディスカウントの解消」について解説していく。

コングロマリットディスカウントとは
まず、そもそも「コングロマリット」とは、
をいう。
そしてコングロマリットディスカウントとは、そういった企業の株価(厳密には株式価値)が、コングロマリットであるがゆえにある程度割り引かれているという現象を指す。
要は、コングロマリットという形態は株主にとってネガティブだとする考えだ。
しかし、具体的にどういった理屈で株価が割り引かれるのか(コングロマリットであることがなぜ株主にネガティブなのか)についての見方はプロの中でも割れている。
なかには、ファンダメンタルズ分析の作業が複雑・難解になることに対するプレミアムとする見方もある。
要は、投資家の頭の中の情報不足に起因するプレミアムというものだ。
一方で、コングロマリット形態が会社全体で見た収益性を下げ、かつ各事業のリスクを高めるからという見方もある。
単一事業を手掛ける企業の場合
単一事業を手掛ける企業は、当然ながら会社全体でみた資金の流れがシンプルだ。
株主から資金を調達し、事業に投資し、その事業が年率一定の比率で収益を上げ、その一定割合を株主還元に回し、残りを投資に回し、一定の比率で株主資本、総資産が拡大する。
成長企業であれば「一定」ではなくなるが、成熟企業であればさほど大きくブレることはない。
そしてこれは投資家目線でいえば、業績予想が立てやすいということになる。
それゆえ、リスクプレミアムは低下し、株式価値が高まる。
複数事業を手掛けるソニーの場合
一方でソニーのように複数事業を手掛ける場合はどうだろう。
事業内容がそれぞれ異なるため、各々の成長性、安定性、収益性、レバレッジ、事業規模、リスク、キャッシュイン/キャッシュアウトのタイミングなど、多くの要素がバラバラだ。
ソニーはこれらの複数事業運営を1つの資本(財布)でやり繰りすることになる。
結果的にどうなるのかというと、資金の配分先が複数あることで事業個別の資金の流れが非常に複雑になる。
・ モバイルコミュニケーション事業で追加の資金負担が必要となり、音楽事業での投資予算を削らざるを得ない(音楽事業での投資配分が崩れ、業績見通しが崩れる)。
といった事態が頻繁に起こり得る。
そしてこれは、
・ こういった複数事業の一括予算管理では、上の例にあるように成長事業の足を他事業が引っ張るケースも起こる。
・ 成長事業への投資を他の事業で発生した資金需要が阻害することは、会社全体で見た収益性を下げることにつながる。
単一事業であれば予算計画が他事業の影響を受けることはなく、上記のようなリスク上昇は起こらない。
また、事業の成長性に合わせて予算計画をフィットさせることができるため、「投資すればリターンを上げられるのに十分な資金を回せない」といった資金のミスマッチも起こりにくい。
結果として、会社全体で見た収益性の低下は起こらない。
これらが、コングロマリットが及ぼす会社全体の収益性とリスクへの影響だ。
コングロマリットディスカウントはこうした理屈により発生する。
半導体はなかでも特殊な事業

今回売却の焦点となっている半導体事業は、多くの産業の中でも特殊な性質を持つ。
それは、
というものだ。
シリコンサイクルという産業独特の景気循環により、半導体事業のキャッシュフローは不安定だ。
その場合、銀行サイドから見たリスクが高まり、負債調達による事業拡大がしづらくなる。
負債は基本的に個別事業としてではなくソニーという一会社として調達するものなので、半導体事業を運営している限り、ほかの事業もその負債調達のしづらさによる影響を受けてしまう。
これが今回、半導体事業が売却の焦点となった最大の理由だろう。
なぜ、事業を売却しなければならないのか。
なぜ、半導体なのか。
上記のポイントを押さえて今後のソニーの動向を見ると、面白みが増すだろう。(執筆者:高橋 清志)