調停委員として立ち退き料などの話を伺う時に、「借地権の強さと価格」がよく問題になります。
しかし、そこにはいろいろな誤解が生じており、揉めたときに話がうまくまとまらない原因になっていると考えられますので、今回はこの問題についてご説明します。
目次
地代と借地権の関係
まず、地代と借地権の関係ですが、借地権は土地に関する地上権または賃借権の2パターンがあります。
地代とは賃借権という形で土地を使う場合の使用料に相当するものをいいます。
それが月払いか年払いかは問いませんが、それが賃借権の対価として支払っているなら、物権的特性をもつ地上権に比べて権利としては弱いといえます。
従って、高い地代を払っているから権利が強いと考えがちですが、まず第1には権利の種類としては一括で払っている地上権のほうが強いことに注意が必要です。

立ち退き料の構成要素となる借地権価格も誤解されがち
そして地代と借地権価格の関係について、立ち退き料の構成要素となる借地権価格は、これまた高い地代を支払っているほうが借地権価格は高いとイメージされている方が多いと思いますが、これも誤解です。
なぜなら、ある土地を借りるのに相場なら年額10万円するのに、今の借地人が年額1万円で借りることができているのなら、その年額9万円分の「お得部分」が借地人に帰属する利益となり、それをもとに借地権価格が算定されるからです。
そうなると、同じ土地で年額5万円支払っている場合は、年額5万円分しかそのお得部分がないため、借地人に帰属する利益は少なくなりその結果、借地権価格は安くなります。
高い地代を払っているほうが借地権価格は安くなる
このように借地権価格とは、地代が安くて借り得部分が多いと高く、地代が高くて借り得部分が少ないと安くなるものなので、高い地代を払っているほうが実は借地権価格は安くなるのです。
この地代と借地権価格の関係は、家賃と借家権価格でも同様の考えであり、高い賃料を払っていたから、高い立退料になるわけでなく、むしろ安い家賃で住んでいた場合に、失う経済的メリットが大きいため立退料が高くなります。
財産評価では一律の基準で借地権価格を評価しますが、訴訟などになれば今払っている地代や家賃そのものでなく、借り得部分の大きさやその永続性などの個別性を反映して決まるので注意をする必要があると思います。(執筆者:田井 能久)