公的年金(老齢年金、障害年金、遺族年金)は原則として、偶数月の15日に前2か月分が支払われます。
ですから例えば12月15日に支払われるのは、10月分と11月分の年金になるのです。
また障害年金や遺族年金は非課税になりますが、老齢基礎年金や老齢厚生年金などの老齢年金は、「公的年金等の雑所得」になるため、所得税が課税されます。
そのため1~12月に支払われる老齢年金の合計額が、65歳未満の場合は108万円以上、65歳以上の場合は158万円以上だと、原則として老齢年金から所得税が源泉徴収されます。
この源泉徴収される所得税は原則的に、老齢年金の金額に比例して増えていくため、老齢年金の金額に変動がなければ、源泉徴収される所得税も変わらないはずです。
しかし2018年最初の支払日である2月15日に、
「老齢年金の金額が変わっていないにもかかわらず、源泉徴収される所得税が増えて、年金の手取りが減った」
という沢山の苦情が、年金事務所などに寄せられたのです。
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目次
各種の所得控除を受けると、源泉徴収される所得税が少なくなる
老齢年金に課税される所得税は大まかに表現すると、次のような手順で算出します。
(A)1~12月に支払われる老齢年金の合計額 - 公的年金等控除額 = 公的年金等の雑所得
※会社員などの給与所得者の場合には、「1~12月に支払われる給与の合計額 - 給与所得控除額 = 給与所得」になります。
(B)公的年金等の雑所得-所得控除(扶養控除、配偶者控除、障害者控除、寡婦控除、寡夫控除、生命保険料控除など)の合計額=課税所得
(C)課税所得×税率=所得税
これを見るとわかるように、(B)の中の所得控除を受けると、その分だけ課税所得が少なくなるため、年金から源泉徴収される所得税も少なくなります。
そのため日本年金機構などは毎年9~10月頃に、老齢年金の合計額が上記の源泉徴収の基準を満たしている方に対し、「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」(以下では「扶養親族等申告書」で記述)を送付します。
そして返送された書類を見て、扶養親族がいるか、障害状態にあるか、寡婦(夫)に該当するかなどを、確認しているのです。
年金の手取りが減ったのは、扶養親族等申告書の形式変更と業者のミス
扶養親族等申告書はハガキ形式だったのですが、マイナンバーの記入欄などが加わったため、2017年9~10月頃に送付された2018年分の扶養親族等申告書から、A4形式に変更されました。
このような形式変更により、扶養親族等申告書だと気付かず、返送しなかった方がいたのです。
また、書き間違いなどにより、定められた期限までに提出できなかった方もいました。
そのうえ日本年金機構が業務を委託した業者が、返送された扶養親族等申告書の、入力間違いや入力漏れをしたのです。
これらにより2018年最初の支払日である2月15日から、扶養控除や配偶者控除などの所得控除を受けられなくなり、また適用される所得税の税率が、「5.105%」から「10.21%」に引き上がったのです。
そのため、源泉徴収される所得税が増え、年金の手取りが減ってしまったので、年金事務所などに沢山の苦情が寄せられたのです。
所得控除を受けるには書類の返送が必要
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この後に税制改正が実施されたため、2020年以降は扶養親族等申告書が未提出でも、適用される所得税の税率は変わらないというルールになりました。
しかし各種の所得控除を受けるためには引き続き、扶養親族等申告書を返送する必要があります。
また、例えば障害者控除、寡婦控除、寡夫控除などの所得控除は、一定の要件に該当すれば、独身の方でも受けられるため、扶養親族がいないという方も、扶養親族等申告書を返送した方が良いのです。
ただ上記のように2020年以降は、扶養親族等申告書が未提出でも、適用される所得税の税率が変わらなくなったので、該当する所得控除が何もない方については、返送しなくても構いません。
扶養控除等(異動)申告書の提出は、所得税の区分に影響を与える
年末調整の時期になると勤務先から、その翌年の給与から源泉徴収する所得税を決めるための、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(以下では「扶養控除等(異動)申告書」で記述)が渡され、提出を求められると思います。
この扶養控除等(異動)申告書は、年金受給者が返送する上記の扶養親族等申告書と同じような性質のため、未提出の場合は扶養控除や配偶者控除などの各種の所得控除を受けられなくなってしまうのです。
扶養控除等(異動)申告書の提出がないと、勤務先は、給与から源泉徴収する所得税の区分を、扶養親族の数などによって金額が変わる「甲」から、誰でも一律の「乙」に切り替えます。
このように「甲」から「乙」に切り替わると、給与から源泉徴収される所得税は何倍も多くなるため、翌年から給与の手取りが減ってしまうのです。
独身でも要件に当てはまれば控除が受けられる
独身の方だと例えば扶養控除は、収入の低い親と同居している場合や、収入の低い親に仕送りしている場合などを除き、受けられないケースが多いと思います。
しかし扶養控除等(異動)申告書で受けられる所得控除のうち、例えば障害者控除、寡婦控除、寡夫控除、勤労学生控除などは、一定の要件に該当すれば、独身の方でも受けられるのです。
また未提出だと上記のように、源泉徴収される所得税の区分が、「甲」から「乙」に切り替わり、金額が何倍も多くなるため、独身の方でも扶養控除等(異動)申告書を提出した方が良いのです。
なお、例えば副業でパートやアルバイトの仕事をしている場合、本業の勤務先に扶養控除等(異動)申告書を提出したのなら、副業の勤務先に提出する必要はありません。
保険料に関する控除を受けたい年金受給者は、自分で確定申告をする
年金受給者に関係する扶養親族等申告書、会社員に関係する扶養控除等(異動)申告書のいずれについても、扶養親族の情報を記入するスペースが、書類の大半を占めています。
また書類の名称に「扶養」という言葉が入っているため、扶養親族がいない方は提出する必要がないと、誤解している方がいるようですが、独身の方でも原則的には提出する必要があるのです。
もし提出を忘れた場合には、所得税が取られすぎになっている可能性が高いため、自分で確定申告をして、還付を受ける必要があります。
なお年金受給者に対しては、会社員が提出する「給与所得者の保険料控除申告書」に相当するものが、送付されないのです。
そのため生命保険や地震保険に加入しているので、生命保険料控除や地震保険料控除を受けたいという場合には、自分で確定申告をする必要があります。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)