介護が大きな社会問題になりつつある昨今ですが、具体的な対策が進んでいるとは思えません。
確かに介護は人によって状況が全く異なるため各家庭に温度差があり、一般化しにくい側面があります。
さらに介護期間も寿命との兼ね合いがあって予測をすることが難しく、リスク対策の難易度は極めて高いのです。
とはいえ、介護のリスクは避けて通れるわけではありません。
また介護はひとたび巻き込まれると、周囲や関係者の人生設計の変更を余儀なくされるといった特殊性をはらんでおり、リスク対策から外すにはあまりにも問題が大きすぎます。
そこで今回は喫緊の課題である親の介護について経済的視点から考えてみます。

親の介護となると経済的な問題だけではなく、多くの労力が奪われていくといった時間や体力の問題も絡んでくるため、意思決定を1つ誤ると自らの人生設計が崩壊する突破口になりかねません。
また親の介護は現在既に発生している家庭も多く、時間的に猶予がありません。
ここでは親の介護について経済的な側面から見た場合の2つの原則を示します。
できるかできないかは別です。まず原則を知ることが大事です。
目次
【原則1】介護費用は基本的に親自身の公的年金と貯蓄や資産で賄ってもらう
冷たく感じるでしょうが、親の介護費用を子が負担するとなると相当な余力がないと共倒れをしてしまいます。
親世代は比較的年金の支給額が恵まれている世代でもあるため、基本的には親が保有している財産の範囲内でカバーしてもらいます。
またそのためには日頃から親のマネー管理に注意を払う必要があり、生活にムダがあるようならば指摘をしたり、ムダに遊んでいる資産があれば上手に運用もしくは売却してもらうなどして親の資産の保全を図っていかなければなりません。
親世代は案外、資産管理に無頓着な方は多いのです。
【原則2】親の介護のために介護離職はしない
50代で介護離職する人が増えていますが、私たちにとって働いて稼ぐことは最大の資産です。
マネープランのワーストシナリオはリストラや経営破綻そして離職などによって収入が途絶えることです。
もちろん現実には原則通りにはいきません。
だれもが好き好んで介護離職しているわけではありません。
そこで可能な対策として、まずは介護の基盤ともなる介護保険制度をうまく利用する必要があります。
そして
です。
さらに事前の対策としては親の介護に備えて、兄弟や子供などの身内や親戚との間で連係がとれるような人間関係を築いておくことが理想です。
親の介護は人的戦力が整っていた方が断然有利であることは間違いないからです。
身内やヘルパーさんなど含め、相互扶助の精神で協力し合える人が1人でも多ければ、介護離職という最悪の選択は回避できるかもしれません。
老後破産を回避する方法
老後プランの難しさは寿命が予測できないことから端を発しています。
寿命という不確定な要素を抱えた状態では、そもそも老後のマネープランなど作成しようがありません。
本来、長生きとは喜ばしいことであるはずなのに、それ自体をリスクと言わざるを得ない社会環境が今日の姿です。

1. 年金と貯蓄の役割を明確にする
そこでこんなジレンマを解決してくれる制度が終身型の公的年金制度です。
「終身型」とは、一言でいえば、生存している限り、無期限で給付が約束されているということです。
老後破産を回避するためには、この終身型の年金制度を最大限に活用する必要があります。
以下、最も合理的な老後プランの考え方として、貯蓄(資産)と年金を適材適所で使い分けることを提案してみます。
一般的な貯蓄(資産)を切り崩しす老後のマネープランでは、寿命が不確定なため相性が悪いのです。
一方、公的年金であれば、早死にすると損失といったデメリットはありますが、予測不能な寿命にはめっぽう強いのです。
以上の特徴から、確実に老後破産を回避する方法を探ってみます。
2. 貯蓄と年金を垂直に並べる
例えば、適切かどうかはいったん横に置いておいて、75歳を「ほぼ確実に生存しているであろう期間」と仮定します。
そして、期間が限定されている75歳までに貯蓄を投入します。
75歳以降については「いつ何が起きてもおかしくない、不確実な領域」と仮定して、ここは公的年金をあてます。
こうして性格の違うお金を二分して、垂直に並べます。
貯蓄は、何が起こるかわからない老後に備えて蓄えるのではなく、75歳までという限定された期間に、目的をもって集中的に投入することで、貯蓄を墓場まで持っていくことなく、ムダなく使いきれるわけです。
公的年金は不確実な75歳以降にあてることで、資金の枯渇といった、老後プランで最も恐れるシナリオは回避されます。
ちょっと極端ですが、とりあえずここまで、まずは物の考えかたとして、ザックリと説明しました。
年金受給開始年齢の繰り下げ制度を活用する
これを現在の制度にあてはめると、年金受給開始年齢の繰り下げ制度を活用することになります。
今後、年金受給開始年齢は60歳~75歳の選択制に拡大されそうなため、ここではあえて、75歳まで年金受給を繰り下げる前提で話を進めてみます。
※来年(2020年)の通常国会に提出予定の年金制度改革関連法案で、受給開始年齢の上限を現行の70歳から75歳に引き上げる方向で、また受給額も65歳受給の約1.8倍の規模が予定されて、すでに検討を進めています。
この提案のポイントは2つです。
できるだけ長く働く

最大のポイントは「いつまで就労による収入が得られるか」の1点です。
できるだけ長く働ければ、貯蓄を切り崩す期間が短縮できます。
75歳までに貯蓄を準備する
次のポイントは、75歳まで集中的に投入できるように、貯蓄を準備する必要があります。
一般的には、iDeCo(イデコ)、NISA(ニーサ)その他退職金などで準備することが妥当かと思われます。
以上で論理的には老後破産の回避が可能です。
なお、75歳というラインは暫定的であることは言うまでもありません。
ポイントは老後の生活環境として「年金収入>老後の支出」の状態になるラインまで、年金の繰り下げを行うことです。(執筆者:長崎 寛人)