遺産相続のトラブルを未然に防止するためには、遺言書を書いておくことが非常に有効です。
親が高齢になると遺言書を書いてほしいと考える人も多いですが、なかなか本人には切り出しにくいものです。
親に遺言書を書いてもらうためのテクニックにはさまざまなものがあります。
そのなかで、子どもたちで文面を作って親に渡すという方法も有効ですが、その反面で注意しなければトラブルを招きかねない方法でもあります。
今回は、トラブルを避けつつ上手に親に遺言書の作成を頼む方法について解説していきます。
目次
遺言書を書いてもらうためのテクニック

高齢になった親に遺言書を書いてもらいたいものの、なかなか書いてもらえずに悩んでいる方も多いでしょう。
親に遺言書を書いてもらうためには、さまざまなテクニックがあります。
有名なものとしては、以下のようなものがあります。
・ 遺言書の必要性を説明して説得する
・ 遺言書の作成を手伝う
・ 弁護士や司法書士への相談に連れていく
・ 遺産相続セミナーに一緒に参加する
ストレートに頼んだり、遺言書の必要性を説明することで書いてもらえれば苦労はしませんが、それでも書いてもらえない場合も多いと思います。
以上の他にもいろいろなテクニックがありますが、いわばすべては小手先のテクニックに過ぎません。
それでも遺言書の作成は強制できないので、小手先のテクニックを駆使して何とか書いてもらうしかないのです。
そんな小手先のテクニックの1つではありますが、子どもたちで文面を作って親に渡すという方法の有効性と注意点をみていきましょう。
遺言書を書くのは面倒で抵抗がある
遺言書を書かない理由の1つとして、単に面倒だというものがあります。
たしかに遺言書の作成は面倒です。
遺言を残すからには法律のこともある程度は調べる必要がありますし、家庭によっては相続人がもめないような遺言内容を考えるのも大変なケースもあります。
また、自筆証書遺言を作成するにはさまざまな決まりがあり、その決まりを調べる手間もあります。
決まりを守って遺言書を作成するのも大変なことです。
文章や文字を書くことに慣れていない人は遺言書を書くことそのものに抵抗があるでしょう。
公正証書遺言なら様式の不備を心配する必要はありませんが、遺言内容を考える手間は変わりません。
公証役場へ連絡し、出頭するにも手間がかかるだけでなく費用も少なくとも数万円はかかります。
子どもたちで遺言書の文面を作成して親に渡せば、このような面倒を避けられます。
したがって、この方法は「面倒」が理由で遺言書を書いてくれない親に対しては非常に有効といえるでしょう。
ただ
「相続は相続人に任せる」
など確たる理由があって遺言書の作成を拒否する親に対しては、他の小手先のテクニックを活用して書く気になってもらわなければなりません。
遺言書を写すときの注意点

遺言書の作成を面倒がる親に対しては文面を作って渡す方法が有効ですが、特に以下の3点には注意しておくことが重要です。
1. 自筆証書遺言は本人の自書が必要
自筆証書遺言は、遺言者本人が自筆で書いたものでなければ無効です。(民法第968条1項)
民法の改正によって遺産目録についてはパソコンで作成したり他者が代筆することも認められるようになりました(同条2項)が、本文は今でも本人の自書が必要なのでご注意ください。
子どもたちが作った文面に親が署名捺印をしても遺言書としては無効になってしまいます。
2. 無理やり書かせた遺言書は無効となる
遺言書の文面を作って親に渡す場合、そのとおりの内容で遺言書を書くことを無理強いしてはいけません。
強制的に書かせた遺言書は、遺言者本人の真意が書かれたものではないので無効になってしまいます。
親に文面を渡すときには、内容を十分に説明して納得してもらうか、その内容を参考としつつも自分なりの遺言内容を考えてもらう必要があります。
3. 遺言書を無理やり書かせると相続できなくなる
遺言書を無理やり書かせることでその遺言書が無効になるだけなら、まだ被害は軽いといえます。
無理やり書かせたことが発覚すれば相続人の欠格事由(民法第891条)に該当し、相続できなくなってしまいます。
なかなか遺言書を書いてくれない親に対してじれてしまうこともあるかもしれませんが
というような発言はくれぐれも慎まなければなりません。
遺言書作成に焦りは禁物

遺言書を無理やり書かせたことが発覚するのはほとんどの場合、他の相続人からの指摘によります。
したがって、上記の2番目と3番目のトラブルを完全に防止するためには、まず相続人全員に文面の内容に納得してもらう必要があります。
つまり、相続開始前に遺産分割協議を行ってしまうような形です。
そうすると遺言書の必要性もなくなってしまいます。
ただ、相続の準備としてはそれが理想的な形ともいえます。
いずれにせよ、遺言書の作成を渋る親を説得するのは簡単なことではありません。
結局は無理強いすることなく、コミュニケーションを密にとりながら気長に説得するしかないのかもしれません。(執筆者:川端 克成)