今回は、満期保険金や解約返戻金がもらえる生命保険の「出口戦略」について解説していきます。
目次
満期保険金にも税金がかかる
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先日ニュースサイトの記事を読んでいたら、
という話が掲載されておりました。
この理由としては、一時金で受け取った養老保険の満期保険金は、保険料の負担者と保険金の受取人が同一の場合、一時所得として所得税が課税されるからです。
満期保険金の支払い状況は税務署も把握している
申告漏れを指摘された女性はこういったことを知らなかったため、税務署から呼び出しを受けた時にはかなり驚いたそうです。
では、税務署は満期保険金が支払われたのをなぜ把握できたのでしょうか。
生命保険会社が次のようなものを支払った際には、「誰が、いつ、何を、いくら受け取った」などがわかる「支払調書」を、税務署に提出しています。
・ 同一人物に対する、年間20万円を超える年金
おそらく税務署はこの支払調書を見て、満期保険金が支払われた事実を把握したのだと思います。
一時所得に課される税金をできるだけ安くするには、どのような出口戦略を考えればいいのでしょうか。
社会保険(健康保険)に入っておく
税務署から呼び出しを受けた女性は、自分の所得税を支払っただけでなく、夫が配偶者控除を受けられなくなったため、その分の所得税も支払ったそうです。
また今回の記事には記載されていませんが、夫に課税される所得税だけでなく、国民健康保険の保険料についても、一時的に高くなる可能性があります。
この理由は算出方法にあります。
社会保険(健康保険、厚生年金保険)… 一時所得を合算せずに、勤務先から受け取っている給与の金額だけを元にして保険料を算出
出口戦略
満期保険金が支払われた年の翌年や翌々年は仕事を辞めないで、引き続き健康保険に加入し、一時的に高くなった国民健康保険の保険料を支払わないようにするという、出口戦略が考えられます。
また仕事を辞める場合には、国民健康保険に加入しないで、健康保険の任意継続被保険者になるという、出口戦略が考えられます。
一時金をもらっても社会保険の扶養からは外れない場合がある
満期保険金の金額によっては、上記のように一時的に「税法上の扶養」から外れます。
しかし満期保険金のような一時的な収入で、年収130万円(60歳以上の方や、障害のある方は180万円)以上になったケースでは、「社会保険(健康保険、厚生年金保険)の扶養」から外れない場合が多いです。
また健康保険の扶養に入っていれば、保険料の負担がないため、一時所得によって保険料が高くなる心配がありません。
出口戦略
満期保険金を受け取る予定があるなら、国民健康保険から抜けて配偶者や子供などが加入する健康保険の扶養に入っておくという、出口戦略が考えられます。
なお仕送りしている金額によっては、別居している家族を健康保険の扶養にできる場合があるため、送金記録のある預金通帳の写しなどを、とっておいた方が良いと思います。
複数の生命保険加入時は満期と解約を別の年にする
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保険料の負担者と保険金の受取人が同一の養老保険や終身保険を解約して、解約返戻金を一時金で受け取った場合にも、一時所得として所得税が課税されます。
ただ一時所得を算出する際には、満期保険金や解約返戻金の金額から、支払った保険料の合計額だけでなく特別控除額の50万円を差し引けます。
そのため特別控除額の50万円を差し引いた段階で、一時所得がゼロになった場合には、所得税は課税されません。
この特別控除額の50万円は、とてもお得な制度ですが、一時所得全体で年に1度しか使えません。
例えばA養老保険が満期を迎えた年にB終身保険を解約し、どちらの生命保険も支払った保険料の合計額を差し引いた段階で、一時所得がゼロにならなかったとします。
満期保険金(500万円) – 保険料の合計額(450万円) = 50万円
【B終身保険】
解約返戻金(300万円) – 保険料の合計額(270万円) = 30万円
こういったケースの場合、A養老保険とB終身保険の合計額である80万円(50万円 + 30万円)から、特別控除額の50万円を差し引くため、30万円の一時所得が発生します。
一方でA養老保険の満期保険金と、B終身保険の解約返戻金を受け取るのが別の年だったとしたら、いずれからも特別控除額の50万円を差し引けるため、一時所得が発生しません。
出口戦略
複数の生命保険に加入している場合、満期と解約を同じ年にしない、または複数の生命保険を同じ年に解約しないという、出口戦略が考えられます。
所得控除を活用して課税される所得をゼロにする
支払った保険料の合計額と特別控除額の50万円を差し引いた段階で一時所得が発生しても、所得税を算出する際にはその金額を2分の1にできます。
また2分の1にした一時所得と、給与や年金などに関する所得を合算した合計所得から、一部の高額所得者を除き、所得控除の一種である「基礎控除」の48万円を差し引けます。
さらに本人や家族の状況によっては、
・ 扶養控除
・ 障害者控除
などの所得控除を差し引けます。
給与や年金などの金額によっては、この段階で課税される所得がゼロになると思いますが、ゼロにならない場合もあります。
出口戦略
所得控除を作る、または探してみるという出口戦略を、実行してみます。
所得控除を作る
所得控除を作るとは、例えば、
・ 同居する家族が納付する必要のある国民年金の保険料を代わりに納付する
というものです。
この理由として、国民年金の保険料はその全額を「社会保険料控除」として、合計所得から差し引けるからです。
その他に、iDeCo(個人型の確定拠出年金)の掛金もその全額を「小規模企業共済等掛金控除」として合計所得から差し引けるため、これらをうまく活用すれば、課税される所得をゼロにできます。
所得控除を探す
所得控除を探してみるとは、受けられる要件を満たしているのに、受けていない所得控除がないのかを確定申告の前に調べてみるというものです。
例えば「勤労学生控除」や「寡婦(寡夫)控除」は、受けられる要件を満たしているのに、実際には受けていない方が意外に多い所得控除ではないかと思います。
外貨建て保険の「出口」は為替レートで判断する
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現在は円建て保険の予定利率が低いため、これより予定利率が高い外貨建て保険が、人気を集めております。
この外貨建て保険は加入する時より、円安・外貨高(例えば米ドル高)が進んだ場合には、解約返戻金や保険金の金額が、想定より増える可能性があります。
一方で加入する時より、円高・外貨安(例えば米ドル安)が進んだ場合には、元本割れする可能性があります。
出口戦略
円安・外貨高が進み、解約返戻金が増えたタイミングで満期を待たずに解約するという、出口戦略が考えられます。
また、満期まで保有した段階で円高・外貨安が進んでおり、かつ据え置き機能が付いている場合には、すぐに保険金を受け取らずに円安・外貨高が進むのを待つという出口戦略が考えられます。
いずれにしろ外貨建て保険は、円建て保険とは別物と捉えて、出口戦略を考えた方が良いです。
生命保険の種類に応じた出口戦略を
生命保険の出口戦略についてご紹介しました。
それぞれの種類や各ご家庭の状況に応じて、損をしない出口戦略を考えておきましょう。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)