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春先は、異動シーズン
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4月になると多くの企業が新年度を迎え、同時に人事異動が行われます。
もしも辞令が出て、遠方の事業所に転勤することになったら、何より大きな問題となるのガ「住まい」です。
「住まい」を変えることにより経済的負担が以前より大きくなるリスクがあります。
これからの異動シーズンに備えてポイントを確認しておきましょう。
転勤の場合の問題点と時間的な制約
人事異動は4月1日付で出されることが多いようですが、実際の手続きはその前から始まります。
人事異動の対象者にあらかじめ「内示」が出されるのですが、この「内示」のタイミングによって「住まい」の準備にかけられる時間が変わってきます。
準備にかけられる時間が多いほうが、転勤する側にとって有利です。
具体的には、次の点をどう考えるのかが問題です。
2. 家族帯同か、単身赴任か
3. 現在の住居はどうするのか
一般的には、新組織体制が3月上旬に決定し、3月中旬頃に対象者への「内示」が行われるケースが多いようですが、中には4月1日直前まで「内示」を出さないケースもあります。
この場合には上記の問題点を考える時間がより少なくなるので、実際の着任をずらしてもらうように企業側に交渉し、時間的猶予を作るようにしなければなりません。
1. 転勤先の住まいをどうするのか
転勤先の「住まい」に関しては、基本的に企業側で用意し賃料などの一部の費用を従業員側が負担するのが一般的です。
企業側が用意する「住まい」には大きく分けて次のようなものがあり、それぞれメリット・デメリットがあります。
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このほか借上社宅の場合には、企業側が負担する費用が所得税法上の給与とみなされ、課税される場合がありますので、事前に企業の窓口担当者に確認しておきましょう。
具体的には、次のような場合に課税対象とされます。
2.((1) に該当しなくても)契約者名義が本人となる場合、企業側の負担額が課税対象となる
都市機構(UR)住宅は原則として居住者の名義で契約するため、特に注意が必要です。
2. 家族帯同か、単身赴任か
転勤先での住まいの確保のほか、次のようなリスクも考慮しなければなりません。
・ 子どもの転入学に関する費用
・ 配偶者の退職による収入減少
【単身赴任の場合】
・ 二重生活による生活費の増大
・ 自宅への帰省費用
など、どれも大きな問題です。
人事異動の辞令(転勤命令)は絶対的なのか
企業側は雇入れている従業員を雇入れ時の条件の範囲内で自由に配置転換できることが原則です。
しかし、法律が従業員の負担が過大なものとならないよう企業側に配慮義務を定めている場合には事情によりこの原則が制限されることがあります。
代表的なものとして「育児介護休業法」に基づく配慮義務というものがあり、子どもがまだ幼く、配偶者以外に育児の協力を頼める人がいないような場合には、企業側に身体的・経済的な負担を軽減する配慮を求めることが可能といえます。
一例として、単身赴任期間を限定してもらう、ベビーシッターを利用する費用を企業が負担するなどがあります。
最近の裁判例では、育児介護に限らず、本人のさまざまな身体的・経済的負担に対する企業側の配慮を幅広く判断する傾向にあります。
3. 現在の住居はどうするのか
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現在の住居に関して、それが購入した「持ち家」である場合には「住宅借入金等特別控除」の取扱いに注意が必要です。
「住宅借入金等特別控除」とは、住宅ローンなどを利用して住宅を購入した場合に、
というものです。
ところが、この制度は「その住宅に現に居住している」ことが条件となっているため、例えば、家族帯同で転勤し、空いた自宅を誰かに賃貸するような場合には、持ち主が現に居住していないことから減税措置を受けられません。
無論、偽って申告すればその分追徴を受けます
年末調整の際に減税効果が最も大きいのがこの「住宅借入金等特別控除」なのですが、この「現に居住している」という条件は見落とす傾向にある盲点なので、特に注意しましょう。
事前に納得するまで説明してもらう
こうしてポイントを押さえるだけでも、その内容が多岐にわたることがお分かり頂けたのではないでしょうか。
実際には、人事異動の際にあらかじめ十分な説明を受けられるケースは少ないと聞きます。
説明する側の理解不足や人事異動全般の諸手続きで失念するなどの事情がその背景にあるといえます。
人事異動は、自身の職務スキルを幅広く成長させるよいきっかけにもなりますが、一方で、それが遠方への転勤であった場合に生活が大きく変化することから身体的・経済的負担も少なくありません。
もし人事異動に関する事前の説明を受けて気になる点があれば、必ず「事前に」、「納得いくまで」説明を求めるようにしましょう。(執筆者:今坂 啓)