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終了となる2つの「年金担保貸付」とは
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・ 労災保険から支給される各種の年金を受ける権利
については、譲り渡し、担保に供し、または差し押さえることができません。
そのため、これらの権利を担保にして、金融機関などからお金を借りられません。
ただ、独立行政法人福祉医療機構(以下では「WAM」で記述)では、これらの権利を担保にして、お金を借りることができるという特例的な制度があります。
年金担保貸付
そのひとつは、公的年金から支給される各種の年金を対象にした、「年金担保貸付」になります。
この制度を利用する際に担保にできるのは、原則65歳から支給される老齢年金だけでなく、障害年金や遺族年金も含まれます。
ただし、
・ 国民年金基金
・ 確定給付企業年金
・ 企業型や個人型の確定拠出年金
といった私的年金から支給される年金は、担保にできません。
また、
・ 生活保護を受給している場合
には、制度を利用できません。
労災年金担保貸付
もうひとつは、労災保険から支給される各種の年金を対象にした、「労災年金担保貸付」になります。
労災保険から支給される年金には、「障害(補償)年金」や「遺族(補償)年金」があります。
そのため、これらの年金を受ける権利を担保にして、WAMから貸付を受られます。
受給年金が返済に充当され残りが振り込まれる
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年金担保貸付や労災年金担保貸付を利用できるのは、
・ 医療
・ 介護
・ 福祉
・ 住宅改修
・ 冠婚葬祭
・ 生活必需物品の購入
などの支出のために、「一時的に小口の資金が必要な場合」に限られます。
そのため次のような3つの要件を満たす額の範囲内で、WAMから貸付を受けられます。
(2) 受給している年金(年額)の、0.8倍以内で、所得税額に相当する額は除きます。
(3) 1回あたりの定額返済額の15倍以内で、融資額の元金相当額を、おおむね2年6か月以内で返済します
要件は以上のようになりますが、(2)の中に記載されているように、貸付を受けられる額は、受給している年金額によって変動します。
この理由について考えてみると、WAMが年金支給機関(例えば日本年金機構)から年金を直接受け取り、借入金の返済に充て、余った分を利用者の口座に振り込むからではないかと思います。
具体的な返済額は1万円単位で、利用者が指定した額になりますが、
・ 最低1万円という「下限」
があります。
また2018年10月3日以降の貸付利率は、
・ 労災年金担保貸付 … 年2.1%
になります。
なお、貸付を受ける際には、連帯保証人が必要になります。
ただし、信用保証機関(公益財団法人年金融資福祉サービス協会)に保証料を支払って、信用保証制度を利用することもできます。
年金担保貸付は「2022年3月末」で申込受付終了
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年金担保貸付と労災年金担保貸付は、2010年12月の閣議決定で、制度の廃止が決定しました。
このように決定された理由について調べてみると、次のような3つの点が挙げられております。
・ 年金を担保にして貸付を受けるという仕組み自体に、問題があると考えられる点
・ 年金担保貸付が創設された当時(1973年~1974年)と比較すると、代わりになる制度が整備されているため、必要性が薄れている点
しかし事業規模の縮減を図りながら、制度を継続してきたので、当面は廃止されないと思っていましたが、2022年3月末の予定で、申込受付を終了する旨の方針が、厚生労働省から示されました。
そのため、年金担保貸付と労災年金担保貸付を利用できるのは、あと2年くらいになります。
ただ、2022年3月末の予定で、申込受付が終了するという話なので、この時点で残っている借入額を、繰り上げて返済する必要はないようです。
収入不足をカバーする「公的医療保険の保険給付」
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年金担保貸付と労災年金担保貸付が終了した後の受け皿としては、各都道府県にある社会福祉協議会が実施している「生活福祉資金貸付制度」が、候補に挙げられております。
これは高齢者世帯に限定した制度ではないため、教育支援資金の貸付も受けられます。
また自己所有の土地や建物に、将来に渡って住み続けることを希望する低所得の高齢者世帯が、その土地や建物を担保にして、生活資金の貸付を受けらます。
その他に児童を扶養している母子家庭や父子家庭、寡婦などに対して、修学資金などを貸付する「母子・父子・寡婦福祉資金貸付制度」が、候補に挙げられております。
こういった公的な貸付制度の他に、
・ 国民健康保険
・ 後期高齢者医療
などの公的医療保険の保険給付を活用して、収入の不足をカバーするという方法もあります。
収入の不足をカバーできる公的医療保険の保険給付には、同一月に支払った医療費の自己負担が、一定額(自己負担限度額)を超えた場合に、その超えた部分が払い戻しされる、「高額療養費」があります。
また一定の遺族などに対して、葬儀費用の一部を補助するために支給される、「埋葬料・埋葬費(健康保険の場合)」があります。
公的制度を活用して借入を防ぐ
まずはこういった公的な制度を十分に活用し、民間の金融機関のカードローンなどを利用するのは、公的な制度だけでは足りない時にした方が良いと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)