相続法の改正により、2019年7月1日から「特別の寄与」という制度が始まり、相続人ではない長男の嫁等も一定の遺産(特別寄与料)をもらうことが可能になりました。
義親の介護に従事する長男の嫁等の苦労が報われる画期的な制度ではありますが、実際に「特別寄与料」を請求するのは簡単なことではありません。
「法律で決められた以上は安心」と思っていると、期待が外れてがっかりとする可能性が非常に高いのです。
下手をすると1円ももらえないことさえあるのです。
そこで今回は、特別寄与料を請求するために気をつけるべき点を説明したうえで、妻が遺産を獲得するためのベストな方法を紹介します。

目次
長男の嫁等が超えるべき5つの難関とは
特別寄与料が法律で認められたとはいっても、
です。
この権利を実現するには、以下の5つの難関をクリアしなければなりません。
難関1. そもそも請求しづらい
義親の介護で苦労してきたお嫁さん(特別寄与者)であっても、義親が亡くなった後に相続人に対して「お金をください」とはなかなか言い出しづらいのではないでしょうか。
特に、義親の子どもたち(特別寄与者の夫やその兄弟姉妹)から介護を押しつけられてきたお嫁さんであれば、言うに言えない場合も多いことでしょう。
そのような場合ほど、相続人側から配慮して特別寄与料を支払ってくれるケースは少ないものです。
相続人側から支払ってもらえない場合には、お嫁さんの方から請求しない限り、1円の特別寄与料ももらうことはできません。
難関2. 遺産分割協議に参加する権利はない
意を決して特別寄与料を請求するにしても、いつ、誰に対して、どのように請求するかで悩むことになるでしょう。
相続人であれば、言いたいことがあれば遺産分割協議の際に主張できます。
しかし、特別寄与者は相続人ではありません。
遺産分割協議に呼んでもらえれば参加できますが、呼んでもらえない場合には各相続人に対してそれぞれ個別に請求していくしかありません。
相続人たちから遺産分割協議に呼んでもらえず、知らない間に遺産分割協議が終了していたということも十分に考えられるのです。
遺産分割協議が終了した後に特別寄与料を請求する場合には、さらに次の難しい問題が発生します。
難関3. 相続人1人1人から払ってもらわなければならない
とされています。
遺産分割協議の前に請求しておけば、相続人たちは特別寄与料を除外して遺産分割できます。
しかし、特別寄与料を考慮することなく遺産分割協議が終了した後に請求する際には、お嫁さんは相続人の1人1人から法定相続分に応じた金額を払ってもらわなければなりません。
例えば、義親の相続人として特別寄与者の夫を含めて5人の子供がいたとしましょう。
特別寄与料として500万円を請求するとすれば、相続人1人1人に対して100万円ずつを請求する必要があるのです。
相続人の全員が快く払ってくれれば問題はありませんが、なかには払ってくれない相続人がいる可能性も十分にあります。
難関4. 請求権には期限がある
ことができます。
しかし、審判を申し立てるには、「相続の開始および相続人を知ったときから6か月以内」または「相続開始のときから1年」という期限があります。
つまり、通常は義親が亡くなってから6か月以内に審判を申し立てないと、特別寄与料の請求権は消滅してしまいます。
四十九日が終わった時点ですでに2か月近くが経過していますし、審判の申し立てに必要な戸籍謄本を集めるにも時間がかかります。
実際には、話し合いが進まないと思ったらすぐに審判申し立ての準備を始めないと間に合わない場合が多いのです。
難関5. 証拠が必要
特別寄与料の金額について、審判で適正に決めてもらうためには証拠を提出しなければなりません。
具体的には、どのような介護をしたのかを日々書き綴った介護日記や、立て替えて支出した費用があればその領収証、介護保険・介護サービスなどに関する書類などが考えられます。
それほど厳密な証拠がなくても審判の申し立ては可能ですが、その場合には介護の労力に見合う程度の特別寄与料が認められる可能性は低くなります。
結局は遺言書の作成が最適

以上の難関を乗り切れば特別寄与料を獲得することは可能ですが、最終的に審判を申し立てたとしても、満足のいく金額が認められることはそれ程ないと思われます。
審判で認められる特別寄与料の相場は、遺産総額の5~10%になろうかと考えられます。
遺産総額が3,000万円だとすれば、特別寄与料は150万円~300万円です。
審判の申し立てを弁護士に依頼すれば、手取りはさらに少なくなってしまいます。
そのように考えると、新しい制度が始まったとはいえ、納得できる金額を獲得するためには義親に遺言書を書いてもらうのが最善の方法だと言えます。
遺言によって、それなりの金額を遺贈してもらうのです。
ただし、義親に無理やり遺言書を書かせるわけにはいかないので、日頃からコミュニケーションをよくとって配慮してもらうことが重要です。
従来からある制度の活用も視野に考える
「特別の寄与」の制度は、まだ始まったばかりです。
いまのところは特別寄与料を獲得するのは簡単ではありませんが、いずれは長男の嫁等に一定の遺産を渡すことが社会常識となる日も来るかもしれません。
それまでは、新しい制度に頼り切るのではなく、遺言書や生前贈与など従来からある制度の活用も視野に入れて対策を考えることをおすすめします。(執筆者:川端 克成)