「傷病手当金」は健康保険に加入している方であれば1度は耳にしたことがあるでしょう。
しかし、どのような場合に支給されるかご存じでしょうか。
「療養のため、労務に服することができなくなった日」から起算して「継続して3日を経過した日」から労務に復帰することができない期間が対象となります。
すなわち労務不能となり、4日目から支給開始となりますが、支給期間の上限は支給を始めた日から1年6か月です。
これは、1年6か月間受給できるという意味ではありません。
途中で受給できない期間(例えば疾病が回復した)が生じた場合でも当初の支給を始めた日から1年6か月という意味です。
ここまでは会社の担当者からでも説明がありますが、問題はここから先です。
働き方が多様化した時代では、副業を行う人も決して珍しくありません。
また、2019年の働き方改革により、年10日以上の有給休暇を付与された方は1年以内に5日を消化しなければならなくなりました。
そのような場合にも傷病手当金は受給できるのでしょうか。
会社の担当者には質問しづらい問題です。
グレーゾーンな状況下になった場合にどのような判断がなされるのかを被保険者(労働者)側、会社側両方の視点で確認していきましょう。
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目次
傷病手当金受給中に副業を行うとどうなる
労務不能か否かの判断は必ずしも医学的判断ではありません。
被保険者の従事する業務の種別などを考慮し、その本来の業務に耐え得るか否かを判断基準として社会的通念に基づき認定します。
参照:昭和31年保文発340号
労務不当と認められる例
傷病の状態が、工場での労務には服せないが、家事の副業に従事する状態
参照:昭和3年保理3176号
本来の職場における労務に対する代替的性格を持たない副業ないし内職等の労務に従事したり、傷病手当金の支給があるまでの間、一時的に軽微な他の労務に服することにより、資金を得るような場合その他これらに準ずる場合には、尚労務不能に該当する。
端的には報酬を得ていることのみをもって直ちに労務不能でないと認定することは相当ではなく労務内容や報酬額などを十分検討して判断されることになります。
会社側の視点としては以下の点に留意すべきです。
「代替的性格を持たない副業ないし内職等の労務に従事したり、傷病手当金の支給があるまでの間、一時的に軽微な他の労務に服することにより、資金を得るような場合その他これらに準ずる場合には、尚労務不能に該当する」に該当するかは見極めが難しい部分です。
しかし、本来傷病手当金は仕事ができない間の所得保障という性質上、支給が停止される可能性も否定できません。
よって、健康保険組合等の保険者に状況を説明し判断を委ねることが適切な対応です。
就業規則に副業禁止の条文が残ったままの場合も
副業促進の時代であっても就業規則に副業禁止の条文が残ったままの企業もあります。
その場合は「服務規律違反となるのか」との問題も生じ得ます。
例えば、被保険者(労働者)自身がリハビリ目的であったということであり、かつそれが背信的な意図はなく、一定の信頼に足りるものであれば、考慮すべき部分と考えます。
直ちに服務規律違反とするのは相当ではありません。
有給休暇を消化して退職し、その後も傷病手当金を受給したい
健康保険の資格喪失後であっても以下の要件を満たしていれば継続して傷病手当金を受給できます。
(2) 資格を喪失した際に傷病手当金の「支給を受けているもの」
新卒入社の場合、入社後すぐに有給休暇は付与されたとしても(1) を満たしていない場合があるので注意が必要です。
今回は(1) はクリアしている前提で話を進めます。
待期期間の問題
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傷病手当金は労務不能となってもすぐに受給できるわけではありません。
労務不能となり、継続して3日が経過すれば待期期間満了となる点をおさえておきましょう。
労務不能期間に有給休暇をあて、待期期間満了とすることも可能です。
すなわち、4日目に傷病手当金の権利が発生します。
また、4日目も有給休暇をあて、そのために報酬が支払われている場合、所得保障の観点から傷病手当金自体は支給停止されます。
しかし、(2) の要件の「支給を受けているもの」の考え方は、現実に支給を受けている場合に限らず支給を受ける条件を満たしている場合も対象になります。
今回の事例では、会社としても(例えば有給休暇付与日から1年経過時に退職となるために)5日付与せざるを得ないケースや労働者自身の意志で有給休暇を取得後に退職し、かつ退職後も傷病手当金を受給できるのかという論点を解説いたしました。
イレギュラーなケースも多いので要確認を
社会保険制度は実務担当者レベルであっても、法律条文のみでは対応できないことが多いのが特徴です。
社会保険制度を活用するタイミングとは、健康状態に黄色信号がともった場合を始め、一筋縄ではいかないケース(イレギュラーが発生しやすい状況)が多いのではないでしょうか。
その場合に通達というものがありますが、法律条文と同じで一般的になじみがあるものとは言えません。
1人で悩まずに行政機関や専門家を活用されることも一案と考えます。(執筆者:社会保険労務士 蓑田 真吾)