法定利率が5%から3%に変更されたという民法の改正は交通事故の被害者に有利になるという話を前回しました。
さらに改正後の7月に興味深い最高裁判決が出ましたので、今回はそれを紹介します。

目次
逸失利益が一括払いの場合の問題
交通事故の被害者には加害者に対し、逸失利益(事故による不具合がなければ将来にわたって得られたはずの収入)を賠償せよと求める権利があります。
ところが、賠償額が決定して一括支払いとなった場合には、まとめて受け取った額を預けることで被害者側に利息が発生するので、将来の利息分(法定利率で計算)があらかじめ差し引かれ、そのため大幅に賠償額が少なくなるという問題がありました。
法定利率3%への変更で賠償額はどうなるのか
損害保険料率算出機構のデータによると、平成29年度で自動車共済を含めた加入割合は約88%です。
このように、日本では、車の所有者は自賠責だけではなく任意保険に加入している割合が高く、損害保険会社(以下「損保」)が事故後の交渉や支払いを行い、高額になる傾向にある逸失利益も一括でなされることが多いので、法定利率の変更は被害者にとってありがたい改正となったわけです。
しかしながら、利率3%というのも現代社会においては、なお相当な高利率であることに変わりはありません。
特に、若くして事故に遭うと、場合によっては将来にわたって40年以上の逸失利益額が一括支払いになります。
今回の裁判のケースでは(当時は法定利率5%でしたが)一括の場合と毎月の定期払いの場合の総支払額は、単純計算でなんと2.7倍もの開きが出るものでした。(一括だと1億円弱という額でした。)
年若い被害者に重い後遺障害が残り、恐らく一生涯にわたり介護を続ける負担を強いられるであろう家族にとって、その負担とともに逸失利益の額の違いは非常に大きなものとなるということは想像に難くありません。
そこで、被害者側が一括ではなく、毎月の定期払いにしてほしいと請求したのが今回の裁判です。
最高裁判所は「相当と認められるとき」には逸失利益を定期払いにすることが可能であると判断を下しました。
全てのケースで「逸失利益の定期払い」が認められるわけではない

もちろん、今回の判決によって全ての逸失利益の支払いに定期払いが認められる訳ではありません。
たとえば、高齢者が被害に遭った場合には、逸失利益額の計算で中間利息控除されてもそれほど開きは出ません。
死亡事故の場合も難しいように思えます。
損保会社側も負担が重くなることは避けたいので、争ってくることは間違いありません。
また、認められたとしても、将来的に障害の程度(級)軽くなったとして損保会社側から減額を求められる恐れがありますので、今後の事例での判断が注目されます。
納得できなければ加害者と話し合う
最後になりますが、もし逸失利益が生じる被害者側になった際には、納得できないのであれば加害者側としっかり話し合うことが大切です。
動揺して言われるがままに提示された賠償額を承諾して後で悔やむことのないように、場合によっては専門家の力を借りて冷静に交渉するようにしましょう。(執筆者:行政書士 橋本 玲子)