1階部分の「国民年金」、2階部分の「厚生年金」のいずれも原則として65歳からが受給開始です。
それよりも早く受給を開始することを「繰り上げ」、受給開始を遅らせることを「繰り下げ」と言います。
統計を見ると「繰り下げ」を選ぶ人は10%にも満たず、決して多いとは言えません。

目次
繰り下げ受給の注意点
このような状況ですが、繰り下げを決断した場合の注意点をQ&A方式で確認していきましょう。
Q1. 70歳までの繰り下げを予定して待機していたものの、69歳で繰り下げを撤回できるのか
A. 可能です。
その場合、一時金として受給することになります。
しかし、よくある間違いで繰り下げによる増額はなく、繰り下げをせずに本来の受給額を遡って受給するという理解です。
また、在職老齢年金(いわゆる年金カット)により全額支給停止となる働き方をしていた場合には遡って請求しても受給できません。
しかし、在職老齢年金の対象となるのは老齢厚生年金です。よって、老齢基礎年金、老齢厚生年金の経過的加算部分は受給可能ということです。
Q2. 70歳まで繰り下げを予定していたものの、69歳で死亡してしまった場合に年金は受給できないのか
A. 受給可能です。
死亡当時に生計を同じくしていた遺族への未支給年金として65歳からの4年間分の年金が一時金として支給されます。
また、在職老齢年金により全額支給停止となる働き方をしていた場合には前例と同じように受給できません。
しかし、在職老齢年金の対象となるのは老齢厚生年金です。よって、老齢基礎年金、老齢厚生年金の経過的加算部分は受給可能ということです。
Q3. 69歳で繰り下げを申し出て、その後に死亡した場合には一時金として受給できるのか
A. 一時金ではなく、繰り下げの申し出をした日の属する月の翌月から死亡した日の属する月分までの年金に対して繰り下げ増額率(1か月あたり0.7%)を乗じた額として遺族が受け取ることとなります。
この場合には繰り下げの待期中ではありませんので、4年分の年金を未支給年金として受給できません。
また、在職老齢年金により全額支給停止となる働き方をしていた場合には前例と同じように受給できません。
しかし、在職老齢年金の対象となるのは老齢厚生年金です。よって、老齢基礎年金、老齢厚生年金の経過的加算部分は受給可能ということです。
法改正後の注意点

2022年4月以降には、年金繰り下げの上限が70歳から75歳まで拡大されます。
そこで、以下のような事例が発生してしまいます(2022年4月1日以降に70歳に到達する方が対象)。
Q1. 73歳から繰り下げ受給を予定していたものの71歳で病気を患い、急遽一時金が必要になるとどうなるのか
A. 年金の時効は5年であるため、このままでは65歳から66歳の分が時効消滅してしまいます。
しかし、前述の例で言うと「71歳の5年前にあたる66歳の時に繰り下げの申し出をしたものとみなす」法改正の施行が2023年4月に予定されています。
従って、1年間の繰り下げとして8.4%増額した年金を終身に亘って受け取れます。
なお、71歳から繰り下げ受給する場合には50.4%増額した年金を終身に亘って受け取れるということです。
Q2. 繰り下げ申し出の上限年齢が引き上がったと言うものの、75歳以降に年金を請求した場合にはどうなるのか
A. 75歳の時に繰り下げの申し出があったものとみなして年金が支給されます。
尚、繰り下げは、最低1年は繰り下げ(66歳以降)なければなりませんが、1年を経過すると1年1か月、1年2か月などの繰り下げとすることは可能です。
遺族厚生年金との関係
遺族厚生年金は、亡くなった方の老齢厚生年金の3/4です。繰り下げを行っていた場合には、増額された年金額の3/4という意味ではありません。
また、報酬との兼ね合いで全額支給停止となっていた場合であっても、厚生年金の加入期間を基礎として計算した年金額の3/4ということになります。
なお、遺族年金については、こちらの記事を参考にして頂くとより理解が深まります。
法改正後の年金知識を少しずつ養う
年金制度は複雑なであることに加えて、度々法改正が行われてきました。
法改正が行われるとこれまでの知識が場合によっては誤りになってしまう可能性もあります。
難しい制度ではありますが、一度に全てを理解しようとすると途中で挫折してしまうこともあります。
誰もに訪れる老後であるだけに、少しずつ制度に触れて知識を増やしていくことが大切です。(執筆者:社会保険労務士 蓑田 真吾)