2020年10月より電子帳簿保存法が改正されました。
クレジットカードや交通系ICカード、電子マネーなどによる、いわゆる「キャッシュレス決済」の取引については、利用明細が経費精算システム等へ保管されていれば紙の領収書が不要となります。
このような内容から、企業は「面倒な経費精算から解放される」と喜ばれるかもしれません。
しかし私は4つの理由から、今回の改正では思うようにペーパーレス化は加速しないのではないかと考えています。

目次
10月からの改正内容をおさらい
従来の電子帳簿保存法では、キャッシュレス決済で支払ったものでも領収書を発行する必要がありました。
仮にこれを電子保存するためには電子上でタイムスタンプを付与することが要件とされていたため、普及率は極めて低いものでした。
それが今回の2020年10月の改正によって、キャッシュレス決済についてはわざわざ領収書を印刷したりタイムスタンプを付与しなくても、利用明細を経費精算システムや会計システムに取り込んでしまえば保存要件を満たすことになりした。
【問題点1】電子保存要件に対応するクラウドサービスの利用が前提
ここまでの内容を見れば、とても使い勝手の良い改正のように感じるかもしれません。
キャッシュレス取引の利用明細を保存するためには「日付や金額、取引先などから検索できるようなシステムでなければならない」といった要件が設けられています。
この要件を満たした経費精算システム等を導入している必要があります。
つまり会社の経理のパソコンのフォルダ内に利用明細を保存しておけば良いというものではありません。
したがってもともと要件に対応したクラウドサービス等を利用していれば問題ありません。
未導入の場合には電子帳簿保存法に対応したシステムを新たに導入する必要があります。
【問題点2】複数税率が混在する場合、利用明細では税率の判別ができない
キャッシュレス決済における利用明細の電子保存は、会計上の観点からも問題が生ずる可能性があります。
現在、日本における消費税は10%と8%(軽減税率)に分かれています。
キャッシュレス決済の利用明細の多くが消費税率の表記がなく、複数の税率が混在する場合には適切な会計処理ができません。
そのような場合にはやはり領収書を見なければ税率の確認ができず、事務手続き上、結局のところ領収書チェックからは逃れられないのではないかと考えられます。
【問題点3】社内のチェック体制がおろそかになるリスク
領収書ではなくキャッシュレス決済の利用明細を電子保存する場合、これまで紙の領収書で経費精算を行っていた会社にとっては社内のチェック体制を再構築しなければなりません。
経費精算書に書かれた内容や添付された領収書をもとに社員の「経費の無駄遣い」を防止している会社も多いです。
これを領収書なしの電子保存とした場合にどのように社内のチェック体制を維持するのか、慎重に検討を行う必要があります。
【問題点4】「紙で保存するもの」と「電子保存するもの」が混在する手間が大きい

いくら社内でキャッシュレス決済取引を推進したとしても、取引先からの請求書は紙媒体で送られてくることも少なくないことでしょう。
こうした紙での請求書や領収書がある場合には、紙のまま保存するか、あるいはスキャナ保存を行う場合には事前に税務署へ申請書を提出し、スキャナ保存するためにはひとつひとつタイムスタンプを付与しなければなりません。
したがって多くの企業の場合、取引先も含めて電子化を行えなければ紙媒体と電子保存のものが混在してしまうため、ペーパーレス化が思うように進んでいかないケースが大半ではないかと考えられます。
電子化のタイミングが重要
今回は10月から実施される電子帳簿保存法の改正内容と、それに伴う電子保存が浸透する可能性についてお話ししました。
現状では一般企業へ広く浸透していくことは難しいのではないかと考えられます。
しかし消費税のインボイス制度が開始することによってペーパーレス化は一気に加速していくことが見込まれています。
どのようなタイミングで電子化へ切り替えていくのがふさわしいのか、検討してみてください。(執筆者:服部 大)