2020年も残すところわずかとなり、例年通り年末調整の時期が近づいてきました。
所得税や住民税といった個人に対する税金計算を行うための年末調整は、税理士からすると「年の瀬の風物詩」のような存在ですが、年末近くになると
といった冗談めいたような言葉を耳にします。
この言葉には一体どんな意味があるのでしょうか。

目次
所得税法上、扶養の判定はその年の「12月31日」の状況で行う
各人の所得税や住民税を計算する上で税額を減らす効果のある「所得控除」ですが、扶養控除や配偶者控除の対象となる親族等の状況については1年通してずっと変わらない年もあれば、就職や独り立ち、結婚、出産などのライフステージに応じて、年の途中に変化が生じる場合もあります。
そのような状況変化が生じた場合に、一体どの時点で判断すべきかという疑問が生じます。
所得税法上、その答えとしては
1日違いで今年の控除額が使えなくなる可能性
冒頭でお話しした「結婚は年内に、離婚は年明けに」という話は、この「扶養の判定を12月31日の状況で行う」という所得税法上の大原則から生まれたものです。
例えば配偶者の所得が扶養内である場合、その入籍日が今年中であれば配偶者控除は原則38万円適用できますが、入籍が翌年の場合には今年の所得税を計算する上では配偶者控除を一切使えなくなってしまいます。
また対照的に離婚をする場合には、年内に離婚をしてしまえば12月31日時点で婚姻関係にないため、配偶者控除を適用できません。
一方で年が明けてから離婚が成立した場合には、年内については配偶者控除を受けられる可能性があります。
年内に離婚はしていなくても、すでに別居していて別生計のようなケースでは不可です。
このように結婚や離婚が「年内か、年明けか」によって、今年の配偶者控除が38万円かゼロかが変わってしまうため、わずか数日の違いが税額にして数万円~数十万円の違いにもなりかねません。
所得控除の有無のために人生の重大な決断を下すことはめったにないことでしょうが、「税法上は12月末の状況で判断する」という前提はぜひ覚えておいてください。
配偶者控除はなぜ月割計算を行わないのか
ところで配偶者控除や扶養控除をはじめとする所得控除には、「月割計算」という概念はありません。
つまり今年1月1日に結婚した場合でも、12月31日に結婚した場合でも、それによって配偶者控除の額に差が出ることはありません。
という考え方はある意味理にかなっているとも言えます。
その年の364日目に離婚したら配偶者控除額がゼロになってしまうというのも、確かにシビアだなと感じます。
しかし日本では「年末調整」という制度により、給与所得のみであれば確定申告をしなくても、勤務先で税額計算が完了するという独特なルールが存在しています。
もし配偶者控除をはじめとする所得控除に「月割計算」という概念が備わっていた場合、扶養関係に変化があった従業員全員に入籍日や離婚した日などを確認しなければならず、従業員数の多い会社などでは事務負担が非常に大きくなってしまいます。
このような年末調整制度の存在が、所得控除の月割計算のような手間のかかる仕組みが実現しなかった理由のひとつではないかと考えられます。

1日の違いが大きな税額の差に
今回は「結婚は年内に、離婚は年明けに」という言葉が意味する、税法上の概念について解説しました。
かつての生まれたばかりの0歳児でも扶養控除を受けられた時代には、「出産が年内か年明けかによっても、扶養控除を1年早く受けられるか否かで差が生じてしまう」という時代がありました。
税法の世界では1日の違いが大きな差になります。
結婚や引越しなど、年末年始付近で重大な意思決定をする場合には、税金面での違いをひとつの判断材料としていくと良いのかもしれません。(執筆者:税理士 服部 大)