家族信託を利用すると、受託者(信託財産を管理する人)は継続的に報酬をもらえます。
この機能を活用して、生前贈与の代わりに家族信託の制度を利用する人もいますが、この方法は得策といえるのでしょうか。
家族信託の受託者への報酬額を決めるときには注意しなければならないことがいくつかありますので、順にみていきましょう。

目次
家族信託の受託者は信託報酬がもらえる
家族信託の受託者になると、委託者から信託された財産(信託財産)を管理し、必要に応じて処分したりもします。
その他にも帳簿付けや確定申告などさまざまな事務もあり、責任も軽いものではありません。
その対価として、受託者は信託財産の中から報酬を受け取ることが認められています(信託法第54条1項)。
信託報酬の決め方と相場
信託報酬の金額に特に決まりはありません。
委託者と受託者との話し合いによって自由に決められます。
ただ、そもそも家族信託は家族の財産を家族のために管理するための制度であり、高額の報酬は想定されていません。
あまりにも高額の報酬を受け取ると、他の家族とのトラブルが生じるおそれもあるでしょう。
そのため、信託財産の規模や受託者の業務量からかけ離れていない範囲内で報酬額を決めるべきです。
このような観点から、報酬額の一応の相場として「成年後見人」の報酬額が参考になります。
裁判所が公表している成年後見人の報酬額の目安は、月2~6万円です。
ただし、弁護士や司法書士などの専門職が成年後見人となった場合の金額です。
家族信託の受託者の報酬額の目安としては、これよりも少し安い程度と考えておくとよいでしょう。
信託報酬の支払いが生前贈与の代わりになる理由
家族信託で受託者が報酬を受け取ることが生前贈与の代わりになるといっても、あまりぴんとこない方もいらっしゃるかもしれません。
この点について少し補足説明をしておきます。
簡単に言うと、信託報酬として毎月2~6万円(年間24~72万円)を受託者に渡すことは、生前贈与で親族に少しずつお金を贈与していくことに似ているということです。
生前贈与の場合、年間110万円は贈与税がかからないため、その範囲内で毎年お金を渡していくということがよく行われています。
しかし、この場合は「名義預金」となってしまわないように注意が必要です。
例えば、祖父が孫の名義の口座に毎年お金を入金していたものの、祖父が口座を管理していて孫はそのことを知らなかった場合は税務署から「名義預金」と判断されてしまいます。
名義預金と判断されると租税の関係では預金者は名義にかかわらず祖父のままということになるので、預金を孫に渡した時点でまとめて贈与税が課せられてしまいます。
家族信託を利用して受託者が報酬としてお金を受け取れば、このようなリスクを避けられます。
報酬を決めるときの注意点

信託報酬の額を決めるときには、信託財産の規模や受託者の業務量からかけ離れていない範囲内で報酬額を決めるべきだということを先ほどご説明しました。
このことは、次の点からも重要といえます。
報酬が高すぎると贈与とみなされる可能性がある
信託報酬の額に決まりがないからといって、高額な報酬を受け取っていると、税務署から実態は「贈与」であると判断されて、贈与税を課されるおそれがあります。
そのため、信託財産の規模や受託者の業務量に見合った金額であると説明できる範囲内の報酬額にしておくべきといえます。
所得税がかかることがある
受託者が受け取る報酬は、「雑所得」として所得税の対象です。
給与所得者の方でも、給与以外に年間20万円以上の所得があると確定申告をしなければなりません。
もっとも、確定申告の際には基礎控除をはじめとするさまざまな控除がありますので、多少の所得があっても所得税はかからないか、かかっても少額となる場合が多いです。
報酬を受け取りたいなら成年後見制度よりも家族信託を
生前贈与の代わりに家族信託の制度を利用することが得策といえるかどうかですが、委託者が元気なうちにわざわざ家族信託を利用するメリットはあまりないでしょう。
しかし、委託者に認知症の疑いがみられるような場合は、早めに家族信託または成年後見制度を利用すべきです。
成年後見制度の場合は弁護士や司法書士と行った専門職が後見人に選任されることが多く、その後見人にへ報酬を支払いつつづけなければなりません。
それよりは、家族信託を利用して家族が受託者となり、報酬を受け取るメリットがあるといえるでしょう。(執筆者:行政書士 橋本 玲子)