待機児童解消を推進したい政権側の方針に基づき、首相官邸の全世代型社会保障検討会議や財政制度等審議会(財政審)財政制度分科会での論議を基に、児童手当の給付が見直されてきています。
児童手当の所得制限を主たる生計維持者(多くの場合は世帯主)から父母合算に変更するとともに、所得制限を超えても認められている児童1人あたり月5,000円の特例給付を0円にすることが検討されました。
父母合算に変更することに関しては見送られましたが、高所得者への不支給については2020年(令和2年)12月15日に閣議決定された「全世代型社会保障改革の方針」に盛り込まれ、2022年10月から改正される方向です。

目次
現行制度:本則と特例の2本立て
現行の児童手当制度では、父母のうちいずれか所得の高い人が所得額「622万円 + 38万円 × 扶養親族等の数(※)」未満を満たす場合に、児童1人あたり月1万~1.5万円の本則給付が適用されます。
※70歳以上扶養親族等に関しては、44万円 × 扶養親族等の数
子供2人のサラリーマン・専業主婦世帯(扶養親族3人)を考えると、給与所得控除などから逆算して、世帯主の年収960万円が所得制限限度額です。ただし所得制限限度額以上でも、月額5,000円の特例給付はもらえます。
この扶養親族等は、年末調整や確定申告で記載する扶養親族や控除対象配偶者ですが、年収103万円を超える配偶者特別控除の対象者はカウントされません。
【関連記事】:新型コロナ緊急経済対策で児童手当上乗せへ(1)源泉徴収票で所得制限を理解しよう
【関連記事】:新型コロナ緊急経済対策で児童手当上乗せへ(2)確定申告書で所得制限を理解しよう
所得額の細かい計算方法については、関連記事にて触れております。
なお2020年は所得の計算方法も変わっているため、2020年の所得に基づいて支給される2021年度の所得制限は10万円ほど変更されることも考えられます。
父母合算の子育て制度が多く変更検討も見送りへ
所得基準の父母合算が検討された理由ですが、財政審の審議資料を確認する限り、父母合算の所得制限が複数の子育て制度に採用されていることが考えられます。
住民税額かそれに準ずるものを基準とする子育て制度が多いのですが、保育料は市町村民税所得割額(所得に応じた税額)の父母合算、高校授業料無償化に関する支援金も市町村民税所得割額に相当する「課税所得 × 6% – 調整控除」の父母合算が基準です。
撤廃に向かっている不妊治療助成の所得制限も、父母合算で判定しています。共働き世帯の増加に応じた所得制限が望ましいという流れから、父母合算の話が出てきています。
実は3年近く前に、筆者は父母合算と次に触れる特例給付廃止の動きを取り上げており、2018年にはすでに検討されておりました。
【関連記事】:児童手当の対象者が限定される改正が検討中 不利にならないように今から考えておきたいこと。
しかし12月9日の首相・公明代表会談で父母合算の変更方針は見送られ、現状維持の方向になりました。
特例給付をもらえなくなる高所得者も
高所得者に対する月5,000円の特例給付を廃止することも検討され、こちらは実現に向かっています。こうなると、子育て世帯であれば最低5,000円もらえていた児童手当が、所得によっては全くもらえなくなるわけです。
最終的な線引き:扶養3人で年収1,200万円相当
12月15日に閣議決定された全世代型社会保障検討会議の最終報告によれば、結局2022年10月支給分より、扶養家族3人の世帯主年収が1,200万円に相当する所得制限限度額以上では全くもらえなくなる案に落ち着きました。
筆者推計では「868万円 + 38万円 × 扶養親族等の数」がこの所得制限限度額になると考えられますが、正確な数値は今後公開される政府や地方公共団体の資料を参照ください。
所得制限「622万円 + 38万円 × 扶養親族等の数」以上で、新しい所得制限限度額未満では、従来通り特例給付5,000円の対象です。(執筆者:石谷 彰彦)