20歳以上60歳未満の公的年金の加入者が、多くの税制優遇を受けながら老後資金の準備ができる、iDeCo(個人型の確定拠出年金)という制度があります。
iDeCoの税制優遇は次のように、
(2) 掛金の運用で利益が生じた時
(3) 年金や一時金を受給した時
の、3つのタイミングで受けられます。
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目次
(1) 掛金を拠出した時の税制優遇
生命保険に加入して保険料を支払っている会社員の方は、年末調整の際に給与所得から、保険料の金額に応じた「生命保険料控除」を差し引けます。
これにより課税所得が少なくなると、課税される所得税が安くなるため、給与から源泉徴収されていた所得税が還付されます。
また翌年の6月以降に、給与から源泉徴収される住民税が、生命保険料控除を差し引いた分だけ安くなります。
iDeCoに加入して掛金を拠出している会社員の方は、年末調整の際に給与所得から、掛金の金額に応じた「小規模企業共済等掛金控除」を差し引けるため、生命保険料控除と同じような効果が生じます。
ただ所得税を算出する際は、1年間に支払った生命保険料の合計が8万円を超えると、給与所得から差し引ける生命保険料控除は、一律で4万円になってしまいます。
それに対してiDeCoは掛金がいくらであっても、その全額を小規模企業共済等掛金控除として差し引けるため、生命保険よりiDeCoの方が、税制優遇が大きいのです。
(2) 掛金の運用で利益が生じた時の税制優遇
iDeCoの掛金を運用できる金融商品は、定期預金などの元本確保型と、投資信託などの元本確保型以外に分かれます。
通常だと定期預金の利息、投資信託の譲渡益や分配金などに対しては、20.315%(所得税が15%、住民税が5%、2037年までは復興特別所得税が0.315%)の、各種の税金が課税されます。
しかし拠出したiDeCoの掛金で、これらの金融商品を積立購入した場合には、利子、譲渡益、分配金などの利益が発生しても、各種の税金が課税されません。
(3) 年金や一時金を受給した時の税制優遇
iDeCoに加入している方が、60歳以降に受給できる老齢給付金は、「一時金」「年金」「一時金と年金の併用」の中から、受給方法を選択できます。
もし一時金を選択した場合には、老齢給付金から「退職所得控除額」を差し引けます。
また年金を選択した場合には、老齢給付金から「公的年金等控除額」を差し引けます。
現状では9割くらいが一時金を選択しているのですが、一時金と年金を併用して、退職所得控除額と公的年金等控除額をうまく活用すれば、非課税で老齢給付金を受給できる可能性があります。
つみたてNISAと iDeCoは利益に対して課税されない
iDeCoと同じように、投資信託などの金融商品を積立購入していく「つみたてNISA」という制度があります。
それぞれの制度で積立できる期間は、iDeCoは最長で60歳(2022年5月以降は65歳)まで、つみたてNISAは年齢に関係なく、最長で20年になります。
どちらの制度も20歳から利用できるため、若いうちから始めた場合には、iDeCoの方が長期に渡って積立ができます。
ただ始めるのが遅くなった場合には、つみたてNISAの方が積立期間を長くできます。
このように両制度は積立できる期間に、大きな違いがありますが、どちらの制度も(2) に記載したような、利益に対して課税されないという税制優遇があります。
一方で(1) の掛金の拠出による税制優遇は、iDeCoだけのものになるため、金融関係の専門家のアドバイスを見ていると、iDeCoを推奨している場合が多いように感じます。
しかしiDeCoには次のような制約があるため、これらの点を十分に考慮したうえで、どちらの制度を最初に始めるのかを、決めるべきではないかと思います。
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【制約1】事業主から証明をもらう必要がある
厚生年金保険に加入する会社員の方が、iDeCoを始める場合には、勤務先の事業主から、資格要件に関する証明をもらう必要があります。
また厚生年金保険の適用事業所になっている、別の会社に転職した場合にも、同じような手続きが必要になります。
この証明が必要な時は勤務先にお願いして、「事業所登録申請書 兼 第2号加入者に係る事業主の証明書」の中に、必要事項を記入してもらいますが、会社内の人間関係によっては、頼みづらい場合があります。
また東京に本社があるような大企業に勤務していると、誰に頼めば記入してもらえるのかが、よくわからない場合があります。
こういったケースでは事業主の証明をもらうのが、iDeCoを始めるうえでの、制約に感じると思います。
一方でつみたてNISAを始める時は、事業主の証明が必要ないので、iDeCoより手軽に始められます。
【制約2】60歳になるまでお金を引き出すのが難しい
iDeCoに拠出した掛金とその運用益は、この加入者が一定の障害状態になったり、死亡したりしないかぎり、最低でも60歳にならないと引き出せないという、大きな制約があります。
例えば勤務先の倒産によって失業し、収入が途絶えてしまった場合には、この制約がデメリットに感じると思います。
ただ新しい仕事がなかなか見つからず、自己破産するという事態になっても、iDeCoに拠出した掛金とその運用益は、他の財産と違って処分されないため、老後資金を失わないで済みます。
また一定の支給要件を満たす場合は例外的に、iDeCoに拠出した掛金とその運用益を、「脱退一時金」として引き出せます。
しかし支給要件がかなり厳しくなっているため、60歳になるまでは引き出せないという前提で、iDeCoを始めた方が良いと思います。
一方でつみたてNISAは保有する金融商品の、全部または一部を売却して現金化すれば、すぐに引き出せるため、最長で20年の積立期間が終わるのを、待つ必要はありません。
【制約3】積立金額を自由に決めにくい
つみたてNISAに積立できる金額の上限は、一律で年に40万円(月の上限は3万3,333円)です。
一方でiDeCoに拠出できる掛金の上限は、職種や企業年金の有無などによって、かなり違ってくるため、自分がどのくらい掛金を拠出できるのかが、非常にわかりにくいのです。
ただ下限は一律で月5,000円になるため、iDeCoで積立を続けていく場合には、最低でもこのくらいの金額を準備する必要があります。
一方でつみたてNISAは、多くの銀行が1,000円、ネット証券だと100円くらいを、積立の下限に設定しているため、iDeCoよりも少ない金額で大丈夫です。
またiDeCoに拠出する掛金を変更できるのは、年に1回だけになりますが、つみたてNISAは特に制限がありません。
このようにiDeCoは掛金の上限がわかりにくいうえに、つみたてNISAと違って積立金額を、自由に決めにくいという制約があります。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)