生前に仲の良かった家族でも、相続が発生して遺産の取得割合について主張が対立すると仲たがいしてしまうケースがあります。
遺産分割の話し合いがまとまらなければ裁判によって解決することになり、各相続人が不要な費用を支払うことになりかねません。
本記事では、遺産を巡っての争いが起こりやすい「3つの相続のケース」を紹介します。

目次
【ケース1】相続人同士の仲が悪い
相続財産の争い事のほとんどは、相続する財産の割合について揉めるパターンです。
民法では相続人が相続できる権利(法定相続分)を明記していて、相続人が亡くなった人の子のみであれば、相続権は各相続人に対して平等に与えられています。
一方で、相続人全員が納得していれば、法定相続分に関係なく自由に相続する割合を決められます。
たとえば、旧民法で存在した家督相続の風習によって現在でも長男が全財産を相続する家庭もありますので、相続人が納得していれば1人がすべての財産を取得しても問題ありません。
ただし、亡くなった人の財産を使い込んだ相続人は取得できる財産が少なくなったり、生前中に亡くなった人の看病や世話をした人は多めに財産を相続できるなど、単純に法定相続分で分けられないケースもあります。
各相続人がお互いの意見を尊重できればよいのですが、相続人の仲が悪いと相続人それぞれの主張の言い合いとなり、いつまでたっても分割協議が成立しません。
さらに、相続が長引くと相続人自信が亡くなることもあるため、遺産分割がさらに困難になります。
【ケース2】義理の兄弟姉妹が遺産分割に意見を出す
相続権があるのは、亡くなった人の配偶者や子どもであり、養子縁組をしていない限り子どもの配偶者には相続権はありません。
一方で、相続人の配偶者の立場で考えると、自分の夫(妻)が相続財産を多く取得すれば将来的に自分の得られる財産が増えるため、配偶者にはできるだけ多くの財産を相続してほしいと願う人もいます。
相続人間の仲と義理の兄弟姉妹間の仲は違いますので、義理の兄弟姉妹が遺産分割協議の話し合いに入ると義理の兄弟姉妹間の仲が険悪になり、実の兄弟姉妹の仲まで悪くなってしまうことがあります。
私は税務署職員時代に、相続税の相談や税務調査でさまざまな相続を見てきましたが、弁護士を介さないと会話が成立しない家族は1つ2つではありませんでした。
【ケース3】分割できる相続財産がない

相続財産が預金だけであれば、相続人の人数にかかわらず財産をキレイに分けることが可能です。
ところが、相続財産を金額ベースで換算した場合に、大部分の資産が自宅(不動産)に集中しているというケースは珍しくありません。
亡くなった人の住んでいた実家しか相続財産がない場合には、相続人には実家を持分取得するという選択肢もあります。
しかしながら、亡くなった人と同居していた相続人がいると実家を売却することが難しいため、別居している相続人が実家の持分取得をしても現金化できません。
相続には特定の相続人が相続財産を相続する代わりに、その相続人が他の相続人に金銭を渡す「代償分割」という方法があり、特定の財産を相続したい相続人に金銭的な余裕があれば代償分割を活用して遺産分割を行うという選択肢もあります。
不動産には数百数千万円の価値があるため、代償分割をするには数百万円単位のお金を用意しなければなりませんので、手元に多額の金銭がないと代償分割することも難しいと言えます。
このように資産価値の高い財産が1つだけしかない場合に、相続財産の分け方に苦慮する家庭も多く見られます。
全財産がどのくらいあるのかを把握しておく
相続財産の総額がいくらなのかが不明だと、生前の使い込みや隠し財産が疑われ、それが原因となって揉めることもあります。
相続争いをゼロにするのは難しいと思いますが、生前に自己の財産を明確にすることで不要な争いを回避することは可能です。
相続税の計算をするには相続財産をすべて把握する必要があり、把握漏れの財産があると税務調査により指摘されて余計な税金を支払うことになります。
遺産分割はできるだけ円満に完了させ、相続税の申告が必要な場合には相続人同士で協力して申告書を作成してください。(執筆者:元税務署職員 平井 拓)