日本の年金制度には大きく分けて「国民年金」と「厚生年金」の2階建て制度となっていて、原則として老後の年金は65歳から受給開始となります。
近年は医療の発達によって平均余命は延びているので、年金の受給開始を遅らせる「繰り下げ」の検討をされる方が増えてきました。
そこで、年金を繰り下げる場合に併せて押さえておきたいことを確認しましょう。
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目次
「繰り下げ」はいつからできるのか
繰り下げはどんなに短くても最低1年は繰り下げなければなりません。
たとえば、65歳11か月で繰り下げを希望した場合には、65歳で請求をしたものとみなされます。なお、1年経過後は1か月単位で繰り下げの申し出が可能です。
増額率
1か月あたり0.7%増額されます。
たとえば、70歳まで繰り下げた場合には、「60か月 × 0.7% = 42%の増額」ということです。なお、この増額率は一生涯適用されます。
増額対象の年金
65歳から受給予定の年金に対して適用されます。また、「国民年金」と「厚生年金」はいずれか一方または両方を繰り下げることができます。
なお、「厚生年金」では民間企業の他に共済組合(地方公務員共済や私学共済)に加入されている場合もあります。
その場合には、民間企業に勤めていた期間によって受給資格を得た老後の年金と共済組合に勤めていた期間によって受給資格を得た老後の年金は同時に繰り下げる必要があります。
「障害年金」「遺族年金」
「障害年金」や「遺族年金」の受給権がある場合には繰り下げできません。
また、繰り下げできる年金はあくまで老後の年金であり「障害年金」や「遺族年金」の繰り下げもできません。
「加給年金」「振替加算」
要件を満たせば「老齢厚生年金」に併せて支給される「加給年金」、「老齢基礎年金」に併せて支給される「振替加算」も増額対象ではありません。
なお、「老齢厚生年金」を受給でき、かつ、「加給年金」も受給できる場合には「老齢厚生年金」を繰り下げてしまうと、その間は「加給年金」は支給されません。
また、「老齢基礎年金」を受給でき、かつ、「振替加算」も受給できる場合には「老齢基礎年金」を繰り下げてしまうと、その間は「振替加算」は支給されません。
増額される額と「加給年金」「振替加算」の額を比較検討する必要がありますが、少なくとも「加給年金」は年額で約39万円と高額であることから「国民年金」のみ繰り下げという判断も多く見られます。
「在職老齢年金」との関係
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給与、月額換算した賞与、年金月額を合算して一定額(65歳前は28万円・65歳以後は47万円)を超えた場合に年金がカットされてしまう「在職老齢年金」と繰り下げの関係を確認しましょう。
年金を繰り下げていたとしても65歳からの老後の年金の全部が支給停止されていた場合には増額対象となりません。
また、「支給停止」となっていますが、将来的に停止されていた部分が遡って支給されるということではありません。その時に支給停止となっていた場合はその後も支給されないということです。
法改正情報
65歳前の「在職老齢年金」の基準となる額は2022年4月から47万円(改正前は28万円)へと改正されます。
また、繰り下げの上限年齢は2022年4月から75歳(改正前は70歳)まで延長されます。
繰り下げるほど長生きする必要あり
繰り下げを検討する場合には平均余命だけではなく、健康寿命も考慮しておくことが適切です。
たとえば、自分の意志で有意義にお金を使える期間は、病に伏す間際まで続くとは言えないことでしょう。
そこで、増額目的とはいえ自身の健康状態を考慮せずにあまりにも長期間増額した年金を受け取ったとしても、繰り下げの申し出後に受け取れる年金は期間的にわずかとなっては後悔が生まれることもあります。
また、年金の目的は老後の生活保障であるため「損益分岐点」という考え方は適切ではありませんが、払った保険料に見合った年金を受け取るには繰り下げれば繰り下げるほど長生きする必要があります。
自身の健康問題と何歳まで生きられるのかは前者を除いて自身であっても正確な把握は困難なことから、あらかじめどのように選択をするかを考えておくことが重要です。(執筆者:社会保険労務士 蓑田 真吾)