似て非なるものとして相続と遺族年金が挙げられます。
相続が認められるからといって、遺族年金も認められるという図式にはなっておらず、それぞれの特徴や注意点など、損をしないためのポイントとなる部分を確認していきましょう。
例えば法律婚状態にはあるものの事実上夫婦関係が破綻している妻と夫、そして、夫が実質的に生計を同じくする第3者(いわゆる愛人)がいた場合で、夫が他界したケースを例に検討します。
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目次
相続で優先されるのは「届出関係」
民法に規定があり、原則として届出関係を重視します。
また、
・ 遺言があれば遺言の内容を優先し、
・ 遺言がなければ法定割合で相続を行う
こととなります。
例えば事実上の婚姻関係が破綻しており、夫婦間の離婚手続きがなされていない状態はその時点ではまだ法律婚状態であり、法律上は配偶者としての相続の権利は認められます。
遺族年金で優先されるのは「実態」
遺族年金の場合、届け出よりも実態が優先されます。
適用される法律は遺族厚生年金であれば厚生年金保険法が適用され、遺族基礎年金であれば国民年金法が適用されます。
例えば法律婚状態であったとしても、事実上夫婦関係が破綻しており生計維持関係が認められない場合、遺族年金は支給されません。
ここが相続と遺族年金の大きな違いと言えます。
よって、相続が認められるから遺族年金も支給されると考えるのは、誤りとなる場合があります。
その時点では法律婚状態であるものの離婚協議中である場合などは、今回のケース(相続は認められるが遺族年金は認められない)に該当することがあります。
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遺族年金に必要な「生計維持要件」とは
とされています。
具体的には
・ 年金
・ 事業収入
・ 資産等
が対象です。
所得に置き換えると、収入から必要経費を控除した額と理解してください。
また、長い人生においては一時的な所得を得るケースも想定されますが、そのような場合はその額を除き計算されます。
税法上では一時所得、退職所得などであり、恒常的な収入とはならないものが対象です。
また、前年の年収が850万円以上の場合であっても、定年退職等の理由によりおおむね5年以内に年収が850万円未満になることが明らかな場合は、就業規則などで根拠条文を添付することで認められる場合があります。
よって自己都合退職や事業の経営不振の為に年収850万円を下回るというような場合は、定年退職と同視することはできず、年収850万円の要件には当てはまらないということです。
内縁の妻が遺族年金を受給するには
法律婚状態ではない夫婦関係の場合、これまで述べてきた遺族年金の要件を咀嚼すると、事実上の婚姻関係にある場合も支給対象になるということです。
しかし、通常の法律婚状態の遺族年金の請求より、証明しなければならないものは多くなることは想像に難くありません。
例えば、
・ 住民票上住所が同一であること
・ 申し出た内容を補完する意味合いで、健康保険の被扶養者になっている場合は健康保険証
・ 会社で家族手当の支給対象となっているか否か
・ 葬儀の喪主であったか否か
・ 葬儀の費用負担者であったか
・ 双方の氏名が並記された郵便物の存否
などが想定されます。
しかし、上記の要件を全て満たしたとしても、民法で規定する近親婚の禁止にあたる場合は事実婚としての認定はされません。
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「申請できる権利があるのか」をまず押さえよう
適用される法律は何法の何条等、法律家や実務家でなければ通常は理解できていないことの方がむしろ一般的です。
また、申請を忘れないことももちろん重要なことですが、「そもそも申請できる権利があるのか」という部分もおさえておく必要があります。
通常のケースとは言い難い場合の申請は、通常のケースより時間を要するので「多くの時間をかけたが結果が伴わなかった」ということがないように留意しておきたい部分です。(執筆者:社会保険労務士 蓑田 真吾)