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「葬儀費用なら故人の預金を使っていい」は本当?相続放棄で注意したいこと

シニア 葬儀
「葬儀費用なら故人の預金を使っていい」は本当?相続放棄で注意したいこと
「葬儀費用なら故人の預金を使っていい」は本当?相続放棄で注意したいこと

お盆の帰省を機に、親の預金や葬儀費用について話しておきたいと考える人もいるでしょう。故人の預金を葬儀代に充てることはできますが、相続放棄の可能性があるなら注意が必要です。預金に手を付ける前の判断や、口座凍結後に使える仮払い制度、生前にできる備えを整理します。

葬儀にかかるお金と、凍結される故人の口座

株式会社鎌倉新書の「第7回お葬式に関する全国調査(2026年)」によると、葬儀費用総額の中央値は96.73万円でした。内訳は「基本料金」が72.02万円、「飲食費」が11.67万円、「返礼品費」が13.03万円です。直近2年以内(2024年3月~2026年3月)に喪主(または喪主に準ずる立場)を経験した全国40歳以上の男女2,000人を対象に、2026年2月27日から3月3日に行われた調査です。

葬儀の種類によって、金額の幅はかなりあります。

「葬儀費用なら故人の預金を使っていい」は本当?相続放棄で注意したいこと

まとまった額を短い期間で用意することになります。故人の預金を充てられますが、踏むべき順番があり、踏み外すと戻れない落とし穴もあります。

まず押さえておきたいのが口座の凍結です。銀行が名義人の死亡を把握すると口座は凍結され、引き出しや預け入れ、引き落としができなくなります。仮払いや相続の手続きを使えば凍結後でも預金は出せますが、時間がかかり、葬儀の支払いに間に合わないことがあります。

相続放棄を考えるなら、故人の預金に手を付けない

相続放棄とは、故人の遺産の引き継ぎを拒否することで、多額の借金があった場合などに選ばれます。見落としやすいのが、故人の預金を使った時点で相続放棄ができなくなる可能性がある、という点です。

民法第921条は、法定単純承認について次のように定めています。「次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。/一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。」単純承認とみなされれば、借金も含めた遺産をそのまま引き継ぐことになります。

注意したいのは、この第1号のただし書きが認める例外が「保存行為」と「第六百二条に定める期間を超えない賃貸」の2つしかない点です。「葬儀費用は例外として認められている」「死亡保険金なら使ってよい」といった説明を目にしますが、これらを例外として認める明文の規定は民法にありません。金額を抑えれば認められる、という線引きも条文にはありません。

放棄の手続きを済ませた後なら安心、というわけでもありません。同条は「三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。」も単純承認とみなすと定めています。放棄後でも、相続財産を隠したり私的に消費したりすれば、この規定により単純承認とみなされる場合があります。

ですから、故人に借金がありそうな場合や、相続放棄を選ぶ可能性が少しでも残っている場合は、故人の預金に手を付けないでください。葬儀費用は相続人自身のお金でまかない、迷うなら預金に触れる前に弁護士や司法書士に相談するのが安全です。

葬儀費用をまかなう3つの方法

相続放棄はしないと決めたうえで葬儀費用を用意する方法は、大きく3つあります。

「葬儀費用なら故人の預金を使っていい」は本当?相続放棄で注意したいこと

1つ目は、相続人がいったん立て替える方法です。余裕があるなら自分のお金で払い、精算方法を相続人間で話し合っておくと揉めにくくなります。

2つ目が、預貯金仮払い制度です。凍結された口座でも、相続人同士の話し合いを経ずに単独で引き出せます。引き出せる額は口座ごとに計算し、各口座で「相続開始時の預貯金債権額×3分の1×引き出す方の法定相続分」までです。ただし同一の金融機関では複数口座を合わせて150万円が上限で、別の金融機関の口座はそれぞれで申請できます。

見落としやすいのが、引き出した額の扱いです。民法第909条の2は後段で、権利を行使した預貯金債権について「当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす」と定めています。仮払いで受け取ったお金は、最終的な取り分とは別に追加でもらえるものではなく、後の遺産分割で自分の取り分から差し引かれます。

3つ目は、葬儀費用に必要な分についてだけ先に遺産分割協議を行う方法です。ただし、いつでも使えるわけではありません。民法第907条第1項は、被相続人が遺言で分割を禁じた場合(第908条第1項)と、共同相続人が分割をしない旨の契約をした場合(第908条第2項)を除き、協議で遺産の全部または一部を分割できると定めています。

まず、遺言に分割を禁じる定めがないかを確かめてください。禁止がなければ、相続人全員で合意し、金融機関所定の書類を提出して手続きします。他の遺産の協議は、後日あらためて行います。

なお、これらでも足りないときは、家庭裁判所へ保全処分を申し立てる方法もあります。ただし、仮払いの不足自体が要件ではありません。家事事件手続法第200条第3項の要件は、遺産分割の審判または調停の申立てがあり、債務の弁済や相続人の生活費などの事情から預貯金債権を行使する必要があると認められることです。他の共同相続人の利益を害するときは認められません。

凍結前の引き出しと、相続税控除の線引き

故人の暗証番号がわかっているからと、金融機関が死亡を把握する前に現金を引き出しておく。よく耳にしますが、正規の相続手続きによる払い戻しではありません。

「身内のことだから罪にはならない」と言い切れる根拠はありません。刑法第235条は「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。」と定めています。親族間の特例はありますが、対象は限られます。

刑法第244条は「配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。」と定めています。刑が免除されるのは配偶者・直系血族・同居の親族との間に限られ、それ以外の親族との間では、同条第2項により、告訴があれば起訴されうるということです。同条第3項により、これらの特例は親族でない共犯には適用されません。民事でも、相続をめぐって親族間でトラブルになり、訴訟を起こされれば責任を問われることがあります。

故人の口座から独断で引き出さず、金融機関の手続きを利用してください。葬儀費用を支出した場合は、領収書や明細書を控えて、使い道を他の相続人に示せるようにしましょう。

領収書は相続税でも効きます。相続税を計算するときは、一定の相続人や包括受遺者が負担した葬儀費用を遺産総額から差し引けますが、すべてが対象ではありません。

「葬儀費用なら故人の預金を使っていい」は本当?相続放棄で注意したいこと

葬儀費用で困らないために、生前にできる備え

故人の預金から出す方法は、いずれもお金を手にするまでに時間がかかります。生前の備えにも触れておきます。

本人の預金を葬儀代に充てると決まっているなら、生前に引き出しておく手もあります。ただし家に多額の現金が置かれることになり、狙われる危険や、家族の誰かが使い込むトラブルも起こりえます。

気になるのが互助会です。冠婚葬祭互助会に掛け金を分割して支払う仕組みですが、掛け金の性格は誤解されがちです。いわゆる「友の会」や「冠婚葬祭互助会」は、割賦販売法第2条第6項が定める「前払式特定取引」に該当すると経済産業省は説明しています。掛け金は「指定役務の対価」の前払いであって、葬儀の際に返金されるものではありません。

家族が加入を知らずに指定外の葬儀社で葬儀をするとお金が返ってこない、という説明も正確ではありません。互助会契約は中途解約が可能です。経済産業省「割賦販売法(前払式特定取引)に基づく監督の基本方針-冠婚葬祭互助会編-」(令和8年4月28日改正)は、解約返戻金について「契約約款に定めた計算方法により算出された額」を払い戻していることを互助会に求めています。

とはいえ家族が契約を知らなければ解約にもたどり着けません。加入するなら家族に伝えておいてください。

葬儀信託で費用を用意しておく方法や、生命保険で備える手段もあります。生命保険なら、葬儀を行う方を受取人にしておけば死亡保険金を葬儀代に充てられます。葬儀に特化した葬儀保険もありますが、加入条件は商品ごとに違います。

生前に親族で相続について話し合っておくことがいちばん効きます。全員が集まるタイミングで早めに切り出しましょう。

大事なのは、預金に手を付ける前の判断

葬儀費用に故人の預金を充てること自体はできます。ただし順番があります。最初に確かめるのは、相続放棄を選ぶ可能性が残っているかどうか。可能性があるうちは預金に手を付けず、自分のお金で立て替えるか、弁護士や司法書士に相談してください。放棄しないと決めたなら、立て替えて後から精算、足りなければ仮払い制度、それでも足りなければ分割の禁止がないことを確かめて先に遺産分割協議、と進みます。お盆の帰省は、この話を家族で切り出す好機です。

《編集部》
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執筆者: 編集部 編集部

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