
長年一緒に暮らしてきた相手なら、亡くなった後も当然財産を受け継げる──そう思っている人は少なくありません。しかし、婚姻届を出していない内縁(事実婚)の配偶者には、法律上の相続権はありません。何も準備しなければ、自宅や預貯金を一切受け取れないこともあります。一方で、遺言や生命保険など、生前に備えておけば財産を遺す方法はいくつもあります。相続できないもの、できるもの、その違いを整理します。
内縁とはどんな関係か。相続で置かれる立場
内縁とは、お互いに夫婦になる意思を持ち、共同生活を送りながらも、婚姻届を出していない関係をいいます。挙式を済ませている、住民票の世帯が同じ、賃貸契約の続柄欄に「妻(未届)」と記載しているといった事情から、客観的に夫婦と認められるかどうかで判断されます。事実婚もほぼ同じ意味で、そのパートナーを内縁の夫、内縁の妻と呼びます。
ここで最初に押さえておきたいのが、内縁の配偶者には法定相続権がない、という点です。民法が相続人と定めているのは、婚姻の届出をした配偶者や子などであり、内縁の配偶者はこの「配偶者」に当たりません。どれだけ長く連れ添い、二人で財産を築いてきたとしても、そのままでは一切受け取れないのが原則です。
一方で、二人の間に子どもがいる場合は扱いが変わります。父が認知すれば、その子は父の相続人になります。かつては婚姻していない男女の子の相続分を、婚姻している夫婦の子の半分とする定めがありましたが、現在の民法では削除されており、認知された子の相続分は婚姻している夫婦の子と同じです。
法律婚の配偶者と内縁の配偶者では、相続や税、年金の扱いがどう違うのか。主な項目を整理すると、次のとおりです。

内縁の配偶者に財産を遺す、6つの備え
相続権がなくても、生前に手を打っておけば、内縁の配偶者に財産を渡す道はあります。代表的なのが次の方法です。
まず確実なのが、遺言による遺贈です。内縁の配偶者は相続人にはなれませんが、遺言で財産を譲り受ける「受遺者」にはなれます。財産の種類を決めて渡す特定遺贈と、割合で全体を渡す包括遺贈があり、後者の包括受遺者は相続人と同じ立場になります。そのため遺産分割協議に加わることになり、受け取りたくないときは、自分に遺贈があったと知ってから3か月以内に家庭裁判所で手続きが必要です。
遺贈と近い方法に、死因贈与があります。贈与する人の死亡によって効力が生じる贈与で、その性質に反しない限り遺贈に関する規定が準用されます(民法554条)。遺贈が遺言による単独の行為なのに対し、死因贈与は生前に受け取る人と合意して結ぶ契約で、相続人がいても使える点が特徴です。
次に生前贈与です。1年間に受け取った贈与が110万円以下なら、贈与税はかかりません(暦年課税の基礎控除)。ただし、毎年決まった額を渡し続けると、はじめから総額を分けて贈与する約束(定期贈与)とみなされ、全体に贈与税がかかる場合があります。贈与のたびに契約書を交わす、受け取る側が管理する口座に振り込むといった備えをしておくと安心です。
生命保険の受取人に指定する方法もあります。保険会社の審査(戸籍上の配偶者の有無や同居期間など)を満たせば、内縁の配偶者を受取人にできることがあります。
見落としやすいのが、特別縁故者への財産分与です。これは相続人が一人もいない場合に限られます。家庭裁判所が選んだ相続財産清算人による清算を経てもなお財産が残るとき、被相続人と生計を同じくしていた人や療養看護に努めた人などが家庭裁判所に請求でき、認められれば残った財産の全部または一部を受け取れます(民法958条の2)。請求できるのは、相続人を捜すための公告の期間が満了してから3か月以内です。
そして最も確実なのが、婚姻届を出すことです。法律上の配偶者になれば常に相続人となり、ここまで挙げた不利益の多くが解消します。状況が許すなら、有力な選択肢になります。
内縁の配偶者が財産を受け取るときの、税の重さ
備えをして財産を受け取れたとしても、税の面では法律婚の配偶者より重い負担がかかります。ここは事前に知っておきたいところです。
まず、相続税が2割加算されます。被相続人の一親等の血族(親や子など)と配偶者以外の人が財産を取得すると、その人の相続税額に2割が上乗せされる仕組みで、内縁の配偶者もこれに含まれます。
さらに、配偶者だけに認められる軽減策が使えません。法律婚の配偶者には、1億6,000万円か法定相続分相当額のいずれか多い額まで相続税がかからない「配偶者の税額軽減」があります。自宅の土地の評価額を最大80%減らせる「小規模宅地等の特例」も、配偶者なら手厚く使えます。しかし内縁の配偶者は「配偶者」にも「親族」にも当たらないため、どちらも利用できません。
このほか、相続人が障害者のときに受けられる障害者の税額控除も、対象は法定相続人に限られるため使えません。相続税の基礎控除(3,000万円と、600万円に法定相続人の数を掛けた額の合計)の人数にも数えられず、生命保険金の非課税枠の対象にもなりません。同じ財産を受け取っても、税の重さが変わってくる点は覚えておきましょう。
相続とは別に受け取れるもの。遺族年金と住まい
相続権の話とは切り離して考えたいのが、遺族年金です。これは相続とは別の年金制度で、内縁の配偶者にも道が開かれています。国民年金法と厚生年金保険法は、年金でいう「配偶者」に、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある人を含めています。そのため、生計を維持されていたなどの要件を満たせば、内縁の配偶者でも遺族年金を受け取れます。請求の際は、事実婚の関係や生計をともにしていたことを示す書類が必要です。
住まいについても、法律に定めのある保護があります。亡くなった内縁のパートナーが借りていた賃貸住宅に同居していて、ほかに相続人がいない場合、事実上夫婦と同様だった同居者は、賃借人の権利義務を引き継げます(借地借家法36条)。相続人がいるかどうかや名義によって扱いが変わるため、迷ったら早めに専門家へ確認しましょう。
一方、パートナー名義の持ち家には注意が必要です。法律婚の配偶者には要件を満たせば配偶者居住権が認められますが、内縁の配偶者には認められません。子など他の相続人がいれば、明け渡しを求められる可能性もあります。
遺言をめぐる争いを避ける3つの工夫
内縁の配偶者に財産を遺すと、ほかの相続人との間で争いが起きやすくなります。遺す側の生前の工夫で、その芽を摘んでおきましょう。
ひとつは、遺言執行者に弁護士や司法書士などの専門家を選んでおくことです。遺言の内容を実現する役目を担う人で、あらかじめ決めておけば、内縁の配偶者と相続人が手続きで直接ぶつかる場面を減らせます。
もうひとつが、遺留分への配慮です。兄弟姉妹を除く相続人、つまり配偶者や子、直系尊属には、最低限受け取れる遺産の割合が法律で保障されています。「すべてを内縁のパートナーに」という遺言を残すと、この遺留分を侵害された相続人から金銭を請求される恐れがあります。だれにどれだけ遺すか、割合まで含めて考えておくことが大切です。
そして、遺言そのものは公正証書遺言にしておくと安心です。公証人が関与し、証人2名の立ち会いのもとで作成するため、形式の不備で無効になりにくく、内容をめぐる争いも起きにくくなります。
大切な人に遺すために、元気なうちにできること
内縁の関係では、何もしないままでは相手に財産が渡りません。それでも、遺言や生前贈与、生命保険といった備えを重ねておけば、大切な人にきちんと遺せます。遺族年金のように、相続とは別に受け取れるものもあります。税や遺留分など気をつける点は多いので、迷ったら弁護士や司法書士、税理士などの専門家に、早めに相談すると安心です。


