お盆が過ぎてから2019年(平成31年)度の税制改正に向けて、各省庁が要望を出していますが、そのうちの1つとして、個人事業主の事業承継を税制優遇しようという案があります。
事業承継に関しては、法人経営者に対しては事業承継税制があり、法人経営者と個人事業主の差からこうした要望は生まれています。
高齢の個人事業主からの承継が想定されていますが、今後ますます増えるフリーランスにとっても、関心が高まると考えられます。
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土地に関する相続税は優遇される

2018年現在、個人事業主の事業承継において、税優遇される主な相続財産は土地だけです。
小規模宅地等の特例が個人の居住用より手厚い優遇
土地の相続税評価額を大幅に引き下げるものとして知られている「小規模宅地等の特例」。
亡くなった被相続人と同居し、相続後も申告期限まで住むことなどを条件に、個人の住まいでは330平方メートルまでの部分に対して8割減額されます。
事業用の土地(特定事業用宅地等)に対しては、申告期限までに事業継続することなどを要件に、もう少し広く400平方メートルまでの部分に対して8割減額されます。
アパート経営など貸付事業の土地に対しては、200平方メートルまでの部分に対して5割と少し優遇の範囲が狭まります。
法人経営者は自社株に対する納税猶予あり
一人会社や同族会社の経営者が亡くなっても、法人はそのままですが、自社株を相続することになるケースが多いのです。
同族会社の株式評価は相続時における法人の資産・負債状況に左右されますが、自社株に係る相続税・贈与税に対して納税を猶予する制度(いわゆる事業承継税制)が、2009年よりあります。
2018年から特例措置により雇用継続要件などが緩和されたとはいえ、納税猶予を満たすには都道府県・税務署などに提出する書類が多く、担保提供も必要など、煩雑な手続きで有名でした。
このため、せっかく事業承継の税制優遇を設けても利用状況が低調でした。

建物や設備の相続税評価額が優遇される予定
個人事業主の場合は、相続人の誰か(例えば被相続人の長男など)に事業用の資産やローンを承継させるため、個別の資産に対しての税制優遇となります。
建物や設備など、事業用固定資産に対しての優遇(土地と同様に相続税評価額の減)が有力です。
問題は事業用固定資産の優遇に、どの程度の要件が課されるか、また法人経営者の事業承継税制のように生前贈与まで対象にするかです。
特定事業用宅地等の評価減を活用するには、相続税の申告期限までの事業継続要件はありますが、法人経営者の事業承継税制ほど手間はかかりません。
税務に限らず、もともと法人の経営においては、個人事業に比べて様々な手続きが要求されます。しかし法人経営者と個人事業主の格差是正のための税制優遇となると、個人事業主の相続税優遇にも相応の手間が要求される可能性はあります。
ただその手間が災いして、利用が低調にならないように願いたいです。(執筆者:石谷 彰彦)