今回取り上げる民事信託(家族信託)と任意後見制度は、どちらもまだ歴史が浅いので、まずそれぞれの仕組みを理解したうえで、違いを説明していきます。
簡単な仕組みについては以前書いたこちらの記事を参考にしてください。

目次
「自分の生活を守る老後対策」という共通点
この2つの方法は、どちらも自分の財産を自分が選んだ人物に管理してもらい、自分の生活のために使用してもらいます。
信託には「信託者」、「受託者」以外に「受益者」という第三の登場人物が出てきますが、信託者自ら受益者になることもできるので問題ありません。
自分が認知症になったり、寝たきりになったりしても、財産管理をしてもらえ、その中から施設の入所費用や入院費用、その他必要な費用の支払いを、信託の場合は受託者として、任意後見の場合は本人の代理人として行ってもらいます。
どちらの方法も当事者の意思合致だけで効力が発生する「契約」の形態をとるので、誰に管理を頼んでも構いません。
ただし、契約する意思能力は必要なので、認知症になってしまってからはどちらの方法もとることはできません。
任意後見では財産の運用ができない
民事信託は、これまで信託銀行などでしか行えなかった信託業務を個人間でもできるようにと登場した仕組みなので、信託銀行と同様に、受託者に自分の資産を運用してもらい、財産を増やすことが可能です。
不動産の活用や運用も、信託を目的として受託者に所有権が移転されるので、信託の目的のためであれば売却などの重要な行為も受託者が行えます。
一方任意後見はあくまでも本人の代理人として財産を管理することしかできません。
後見業務遂行中にどうしても不動産を処分しなければならない場合は家庭裁判所の許可が必要であったりと、代理人として行える業務には一定の制限があります。
民事信託では「身上監護」ができない
病院への入退院や施設入所、介護に関する手続き一般などを身上監護といいますが、これらは契約が絡む法律行為であり、代理権を与えられている任意後見人は行えますが、財産の管理運用しか扱えない受託人にはできません。
もちろん子が親の受託人になっていた場合に、子が介護行為そのものを行うことは「身上監護」ではないので、問題ありません。
このほかに任意後見業務は本人の判断能力が衰えてから家庭裁判所に後見監督人の申し立てをして開始しますが、民事信託は本人が元気なうちから開始するのが一般的であるなど、さまざまな相違点があります。
どちらの方法を選択するか、あるいは併用するかは本人や家族の事情によるところが大きいので、専門家に相談したり、セミナーに参加したりして理解を深めておくことをお勧めします。(執筆者:橋本 玲子)