日本年金機構は2020年9月10日に年金業務に関する事務処理の誤りが「2019年度の1年間で1,742件あった」と発表しました。
この詳しい内容については、「事務処理誤り等(平成31年4月分~令和2年3月分)の年次公表について」に記載されています。
参照:日本年金機構「事務処理誤り等(平成31年4月分~令和2年3月分)の年次公表について (pdf)」
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目次
事務処理の誤りによる年金未払い金額
事務処理の誤りの中で最も困るのは、これによって年金の未払いが発生した場合だと思います。
上記の資料によると年金未払いの発生件数は443件、また、年金未払いの合計額は約6億740万円だったそうです。
そうなると1人当たりの未払いの平均額は、約137万円(約6億740万円 ÷ 443件)と計算できます。
年金生活が始まり、収入が少ない中での約137万円の違いは、軽視できません。
なお上記の資料の中には、次のような結果だった事務処理の誤りが判明した契機が記載されております。
・ お客様からのお問い合わせ等を契機に判明:824件(47.3%)
このように半分程は、年金加入者や年金受給者などからの問い合わせで判明しているので、日頃からの注意が大切になってきます。
また、年金事務所などの事務処理の誤りの場合には、納付期限(翌月末日)の翌日から2年が経過して保険料の徴収権が時効を迎えた後でも、国民年金の保険料を納付できるという特例があるため、諦めないことも大切だと思います。
年金記録が間違っていた時は「訂正請求」をする
年金の未払いが発生した理由について調べてみると、年金を算出する時に使われる年金記録が何らかの理由で間違った場合が多いです。
そのため、最も注意すべきなのは、誕生月(1日生まれは誕生月の前月)に送付される「ねんきん定期便」の中に記載された年金記録だと考えております。
会社員の方がねんきん定期便を見る際には、
したほうがよいと思います。
資金繰りに困った事業主が従業員の月給や賞与から控除した保険料の全部または一部を運転資金に使ってしまったケースがあったからです。
また、「ねんきん定期便」に記載されている保険料の納付額が実際より低い場合には、将来に支給される年金額が減ってしまうため年金の未払いが発生するからです。
35歳、45歳、59歳といった節目年齢に封筒で送付される、A4版のねんきん定期便には次のような事項も記載されています。
・ 資格を失った年月日 → 原則として退職日の翌日
特に、転職の多い方はこの2つが間違っていないのかも調べておきたいところです。
もし「ねんきん定期便」を見ていて何らかの間違いが見つかった際には、住所地にある年金事務所で訂正請求をして年金記録を正しいものに直しておきましょう。
できれば年金を受給する前に訂正請求を行い、初めから正しい金額の年金を受給できるようにしたほうがよいと思います。
ただし、訂正請求には期限がないため、年金の受給を始めた後でも、また、年金受給者が亡くなった後にもその遺族が手続きできます。
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「ねんきん定期便」に記載がなくても受給できる年金がある
厚生年金保険に原則として20年以上加入した方が65歳になって老齢厚生年金の受給を開始する際に、その者に生計を維持されている65歳未満の配偶者がいる場合、老齢厚生年金に「加給年金」が上乗せされます。
また、加給年金の対象になっている配偶者が65歳になり、自分の老齢基礎年金の受給を開始すると加給年金は「振替加算」へと切り替わり、配偶者が受給する老齢基礎年金に上乗せされます。
ただし、加給年金が振替加算に切り替わるのは、加給年金の対象になる配偶者が次のような2つの要件を満たしている場合に限られます。
・ 厚生年金保険に加入した期間が原則として20年未満
2017年9月に厚生労働省は「加給年金から振替加算への切り替えがうまくいかなかったため、約10万6,000人に対して約598億円の未払いがあった」と発表しました。
この原因になったのは日本年金機構の情報システムの不備や事務処理の誤りだと言われております。
一方で、個人的には「ねんきん定期便」の中に加給年金や振替加算の情報が記載されていないため、年金受給者が未払いに気付きにくかったという点も原因のひとつだと考えております。
従って、年金を受給する前に年金事務所、街角の年金相談センター、銀行の年金相談などに行って、
です。
なお、低所得の年金受給者を対象にして2019月10月から支給が始まった「年金生活者支援給付金」の情報も「ねんきん定期便」には記載されていないので、対象になりそうな方は注意すべきだと思います。
不支給になった時は「審査請求」と「再審査請求」を活用する
公的年金というと原則65歳から支給される「老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金)」を思い浮かべる方がかなり多いと思います。
しかし、一定の障害状態になった時に支給される「障害基礎年金」、「障害厚生年金」、「障害手当金」などの「障害年金(一時金)」があります。
また、公的年金の加入者などが死亡した際に支給される「遺族基礎年金」、「遺族厚生年金」、「寡婦年金」、「死亡一時金」などの「遺族年金(一時金)」もあります。
いずれについても受給要件が複雑なため、本来は受給要件を満たしているのに誤って不支給の決定が出されて年金が未払いになったケースがかなり発生しているようです。
こういった決定に納得できない方が活用したい制度として、社会保険審査官に対する「審査請求」があります。
また、社会保険審査官の処分に不服がある時には、社会保険審査会に対して「再審査請求」をできます。
前者は決定があったことを知った日の翌日から3か月以内、後者は決定書の謄本が送付された日の翌日から2か月以内という期限が設けられているため、不支給の決定に納得できない方は早めに行動したほうがよいです。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)