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東証が検討する上場維持基準「PBR1倍以上」とは 株価上昇は期待できるのか。

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東証が検討する上場維持基準「PBR1倍以上」とは 株価上昇は期待できるのか。

近い将来、日経平均株価が3万円を遥かに超える水準に達する可能性があるかもしれません。

これは、今年1月東京証券取引所が公表した「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」のなかで検討されている内容に関係しています。

この主なテーマは「PBRが1倍を割っている上場会社に対して改善を求めていく」というものです。

PBR1倍問題の背景の一つには、事業規模の大きい東証一部(現在のプライム市場)の銘柄のうちおよそ半数近くが1倍割れの状況で、これは米国の約10倍の規模といわれています。

したがって、日本はまだ十分に改善の余地があることになります。


東京証券取引所の役割について

これを議論しているのは東京証券取引所(略称:東証)ですが、東証に上場している会社は、2023年2月末時点で3,866社にも達しています。

東証は、昨年4月から今までの東証1部市場や東証2部市場といった上場会社の事業規模などに応じた市場区分を見直し、現在は、

  • プライム市場
  • スタンダード市場
  • グロース市場
  • Tokyo Pro Market市場

などの区分に変わっています。

東証の主な業務については、市場にて国内や海外の投資家からの注文にもとづき市場に株式・社債や国債などの債券の売買および決済を証券会社経由で行っています。その他、証券会社への調査や分析も業務の一つです。

東証は、これから上場を予定している会社に対する審査だけでなく、上場した後にも上場を維持するための基準を設けています。

これは上場維持基準といいますが、それに適合しているかの審査も行っています。

それに適合していないと判断されれば、一定の猶予期間が設けられ、改善されない場合は、最悪、上場廃止となります。

したがって、今回、東証は、主にPBR1倍以上の努力目標を含めた新たな上場維持基準を設けるための検討を行っていると見られています。

PBR1倍割れの上場会社は、一般的に割安株と呼ばれています。

たとえばスポーツの世界でいうと、フィギアスケートや体操などの採点競技のようなもので、実力があるのに高い得点がでない場合と同じです。

割安株は、好業績、良好なキャッシュフロー、高配当などを続けているにもかかわらず、株価が低迷している上場会社の株式のことを指しています。

英語では「バリュー株」とも呼ばれているとおり、「買って保有する価値のある株式」のことです。

代表的な株式指標には、

  • PER(株価収益率)
  • ROE(自己資本利益率)
  • 配当利回り

などがあります。

今回、判断基準としての象徴的な指標はPBRです。

PBRとはなにか、1倍割れはどういうことなのか?

PBR(Price Book-Value Ratioの略称)は、株価純資産倍率のことで、株価水準を測定する重要な指標です。

計算式は、会社が保有している純資産額を発行株式総数で割って1株当たりの純資産額と株価を比べた投資尺度のことです。

純資産額とは、会社が株主から集めたお金(資本)や営業活動によって得た利益などの合計額のことです。

式は

株価÷1株当たりの純資産額

ですが、株価は1株当たりの価格なので、純資産額も1株当たりで求めます。

1株当たりの純資産額(BPS)の求め方は、

純資産額÷全発行済み株式数

BPSはBook-Value per Shareの略称です。

PBRが1倍ということは、

「企業が保有している純資産額で株主が保有している全ての株式(時価)を買い戻すことができる」

これを意味しています。

東証は、毎期の損益より、純資産を増やすことを重視するBS(貸借対照表)経営やお金の収支状況から会社の財務状況を把握することを重視するキャッシュフロー経営なども求めています。

これは、上場会社の成長の継続性と企業価値の向上に向けた取り組みとも繋がっています。

東証は、上場会社の株価を底上げしPBR1倍割れを改善するためのガイドラインとして、具体的な取り組みについて、次のように4項目を挙げています。

1. 資本コストや株価に対する意識改革・リテラシー向上

この項目は、経営者が資本コストや自社の株価にたいする意識の足りない上場会社が多いため、経営者の意識改革や経営に関わる知識・能力(リテラシー)の向上および経営者自らも事業計画に関わり目的達成のための取り組みをモニタリングするなどの企業努力が求められます。

ここでは、「資本コストにたいする意識」とありますが、会社経営を続けて行くための方法の一つには、外部からの資金調達がありますが、これにはコストがかかります。

資本コストとは、

  • 銀行からの借入や社債の発行に伴う利息の支払い
  • 株主への配当金の支払い

などを指します。

資本コストは費用なので低いことに越したことはありません。

資本コストを上回る利益が出ない会社は、投資する価値のない会社と投資家に評価されるため、資本コストを意識した経営努力や改善に向けた具体的な取り組みが経営者に対して求められます。

2. コーポレート・ガバナンスの質の向上

コーポレート・ガバナンスとは、企業統治という意味ですが、会社は経営者のものでなく、株主の利益を最優先するという考え方で、これらの会社経営を監視する仕組みをいいます。

具体的な制度としては、指名委員会や報酬委員会などの組織があります。

指名委員会は役員の選任や解任、報酬委員会は役員報酬をそれぞれ議論する役割を担っています。

役員が好き勝手しないようにする目的がある制度で、社外取締役などの第三者を中心としたメンバーで構成されています。

しかし、このような委員会を設置する会社は多くなっていても、その中身は形式的で不十分な事例も散見されているため、そういった会社にたいしては委員会の活動状況の開示や改善を求めるべきとしています。

3. 英文開示の更なる拡充

東証は、海外の投資家にたいする情報量の少なさを指摘しています。

それは、英文で開示される書類の少なさを意味しています。

書類の種類は、

  • 有価証券報告書
  • 決算短信
  • 事業報告書
  • 年次報告書(Annual Report)
  • 株主通信
  • 総合報告書

などが一般的です。

ただし、英訳にかかる費用負担や投資家が入手したい情報などを考慮した上で、書類の選別や開示するタイミングについての検討が必要とされています。

4. 投資者との対話の実効性向上

東証は、株主・投資家・金融機関・取引先等のステークホルダーとの対話に消極的な姿勢が散見されているとしています。

投資家向けの広報活動を担う組織は、事務局的な機能を持つIR(Investor Relations)部門が一般的です。

投資家との対話には、代表権のある会長・社長・広報担当役員などが勤めますが、会社経営を監督する立場にある社外取締役が積極的に応じることも必要とされています。

この項目では触れられていませんが、特に、海外に子会社や関連会社のある会社にとっては、海外の投資家や証券アナリストなどにたいして会社説明会を、直接現地に出向くかオンラインかの方法で実施することがより効果的と考えられます。

上場会社の企業価値は「会社の魅力」

「株式は人気投票のようなもの」ともいわれており、「その会社が好き」「イメージが良い」という理由でもその会社の株が買われ、株価が上がります。

日本の場合は、株や投資信託などのリスク資産への投資が欧米と比べ極端に少ないので、飛躍的な株価の上昇はそう多くは望めないかもしれません。

しかし、PBR1倍割れの上場会社がこの基準に則った経営努力と自社の企業価値を国内外の投資家にアピールするための広報活動を積極的に行うことで、条件付ながら、今後は株価全体が底上げ相場になることを期待したいものです。(執筆者:CFP、1級FP技能士 小林 仁志)

《小林 仁志》
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執筆者:CFP、1級FP技能士 小林 仁志 小林 仁志

オフィスアセットポート 代表 山梨県生まれ。電器メーカーに入社後本社および米国・シンガポール・マレーシア等の事業所に勤務。在職中は財務経理を中心に総務人事・経営戦略・内部監査等の職種を経験したほか、同社の子会社監査役を務め2011年退任、2012年4月より独立系FPとして事業活動を開始。専門分野においては、特に団塊世代の年金・医療保険・税金等のリタイアメントプランや旅行とお金のプラン、住宅ローンや保険の見直し、株式・投資信託等の資産運用など。 <保有資格>:CFP®認定者、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士、総合旅行業務取扱管理者、登録ロングステイアドバイザー(ロングステイ財団)、他 寄稿者にメッセージを送る

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