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健康保険の保険料の引き上げは、10月より4月の方が問題だと考える理由

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健康保険の保険料の引き上げは、10月より4月の方が問題だと考える理由

日本は国民皆保険(すべての国民が何らかの公的な医療保険に加入している状態)を、1961年から続けています。

例えば自営業者、フリーランス、農林漁業者、無職者などは、市区町村と都道府県が運営を行っている国民健康保険に、加入している場合が多いです。

一方で会社などに雇用されている社員と、その被扶養者(社員に扶養されている親族の中で所定の要件を満たす方)は、次のような2種類の健康保険の、いずれかに加入しています。

(A)全国健康保険協会管掌健康保険(通称は「協会けんぽ」)

それぞれの都道府県に支部がある全国健康保険協会が、運営を行っている健康保険になります。

(B)組合管掌健康保険(通称は「組合健保」)

事業主が単独または共同で設立した健康保険組合が、運営を行っている健康保険になります。

この健康保険組合を設立するには、健康保険の被保険者となるべき方の、2分の1以上の同意を得たうえで規約を作り、厚生労働大臣の認可を受ける必要があるのです。

以上のようになりますが、前者の協会けんぽには中小企業の社員と、その被扶養者が主に加入しています。

一方で後者の組合健保には大企業の社員と、その被扶養者が主に加入しています。

なお原則として75歳以上になると後期高齢者医療に加入するため、職種などによる違いはなくなるのです。

健康保険の保険料

組合健保は協会けんぽよりメリットが多い

協会けんぽと組合健保は同じ法律を元にして運営されているため、大きな違いはないのですが、3つの点に違いがあります。

(1)保険料率と負担割合

月給から控除される健康保険の保険料は、この金額を元にして導き出した標準報酬月額に、保険料率を乗じて算出します。

例えば月給の金額が「19万5,000円以上~21万円未満」の場合、標準報酬月額は20万円になります。

東京都の協会けんぽに加入する、介護保険の対象にならない40歳未満の場合、保険料率は10%になるため、保険料の金額は2万円(20万円×10%)になります。

これを事業主と社員が折半して負担するため、月給からは1万円(2万円÷2)の保険料が控除されます。

協会けんぽと組合健保は保険料率が違うのですが、組合健保の方が低く設定されている場合が多いのです。

また組合健保によっては保険料を折半するのではなく、事業主の負担割合を増やしているため、組合健保は協会けんぽよりメリットが多いのです。

(2)保険給付と保健事業

組合健保は協会けんぽと違って、法定給付の上乗せとなる付加給付を実施している場合があります。

これにより病気やケガで診療を受けた時の自己負担が、法定給付だけの場合より軽くなるのです。

また人間ドックの受診補助などの保健事業も、協会けんぽより組合健保の方が充実している場合が多いのです。

(3)国庫補助

協会けんぽの保険給付費には、税金を財源にした国庫補助がありますが、組合健保の保険給付費には国庫補助がありません

健康保険の保険料は上記のように、月給を元にして導き出した標準報酬月額と、賞与を元にして導き出した標準賞与額に、保険料率を乗じて算出します。

そのため給与の平均額が高い大企業の社員が、主に加入している組合健保は、保険料収入が多くなります。

一方で給与の平均額が低い中小企業の社員が、主に加入している協会けんぽは、保険料収入が少なくなってしまうのです。

こういった協会けんぽの財政上の弱点などを補うため、保険給付費に対する国庫補助が制度化されています。

定時決定により10月から保険料が改定される

入社した時点の月給の金額を元にして、各人の標準報酬月額を導き出すのですが、例えば4月に定期昇給が実施されると、月給の金額と標準報酬月額との間にズレが生じます

このズレを解消するために標準報酬月額を、実態に合ったものに改定する必要があります。

ただ4月の月給だけで新しい標準報酬月額を導き出すのではなく、4~6月の3か月間に支給された月給の平均額で、新しい標準報酬月額を導き出すのです。

例えば3か月間の月給の平均額が、「21万円以上~23万円未満」だった場合、標準報酬月額は22万円になります。

東京都の協会けんぽに加入する、介護保険の対象にならない40歳未満の場合、保険料は月1万1,000円(22万円×10%÷2)になるため、上記の例より1,000円ほど高くなります。

こういった改定の仕組みは「定時決定」と呼ばれており、協会けんぽと組合健保の両者で、年に1回実施されています。

また新しい標準報酬月額を元にして算出した保険料は、月給の金額に大きな変動がなければ、9月から翌年8月までの月給から控除されます。

7月に入れば新しい保険料を算出できるのですが、保険料の引き上げが始まるのは、そこから2か月後の9月なのです。

ただ今月の健康保険の保険料を、翌月の月給から徴収する会社が多いため、実際に保険料の金額が引き上げされるのは、9月分の保険料が徴収される10月からになるのです。

4月の保険料の引き上げは財政上の問題が主な要因

健康保険の保険料は10月だけでなく、3月分の保険料が徴収される4月から、引き上げになる場合があります。

その理由は、

協会けんぽや組合健保が、標準報酬月額に乗じる保険料率を引き上げしたから

です。

保険料率を引き上げする主な要因は、制度を維持していくための財源が必要になったからです。

保険料率を引き上げする協会けんぽや組合健保は、財政上の問題を抱えている場合が多いのです。

財政上の問題を解消するために組合健保では、保険料率を引き上げするだけでなく、付加給付や保健事業の見直し(縮小または廃止)を実施する場合があります。

協会けんぽより保険料率が高くなりそうな組合健保では、制度を維持していく必要性が薄れるため、健康保険組合の解散を検討する場合があります。

こういった理由により健康保険の保険料の引き上げは、10月より4月の方が問題だと思うのです。

4月に健康保険の保険料の引き上げがあった組合健保の加入者は、付加給付や保健事業の見直しがあるか否かを、健康保険組合のウェブサイトなどで調べてみましょう。

なお自分が加入する健康保険組合の名称や、協会けんぽの支部がわからないという方は、健康保険証の表面を見てみるのが良いと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)

《木村 公司》
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執筆者:社会保険労務士 木村 公司 木村 公司

1975年生まれ。大学卒業後地元のドラッグストアーのチェーン店に就職。その時に薬剤師や社会福祉士の同僚から、資格を活用して働くことの意義を学び、一念発起して社会保険労務士の資格を取得。その後は社会保険労務士事務所や一般企業の人事総務部に転職して、給与計算や社会保険事務の実務を学ぶ。現在は自分年金評論家の「FPきむ」として、年金や保険などをテーマした執筆活動を行なう。 【保有資格】社会保険労務士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー2級、年金アドバイザー2級、証券外務員二種、ビジネス実務法務検定2級、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種 寄稿者にメッセージを送る

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