今年4月にスタートした「教育資金の一括贈与」が好調です。(社)信託協会のまとめでは、9月末の時点で教育資金信託の契約数が40,162件、信託財産の設定額が2,607億円と安定して増えています。
この制度、孫などの教育資金として一括で1500万円まで非課税で贈与できるというもの。「節税」「かわいい孫への投資」「教育資金」という日本人(特に爺ちゃん婆ちゃん世代の方)の好きな3大要素を全部含んでいます。ヒットするのも当然。この制度を考えた人はつくづく天才だと思います。
ただ、この制度。うまく活用するのはちょっとしたコツが必要です。
1500万円の枠をすべて使い切る必要はない
ここマネーの達人をはじめ多くの情報サイトで指摘されていますが、そもそも「孫の教育資金援助は非課税が原則」です。
これは「孫と同居しているか」、「孫と生計を一にしているか」にまったく関係ありません。例えば、遠くに住む孫の学校の授業料を祖父が支払っていても贈与にはならず、税金はかかりません。さらに言えば、受取人1人につき年間110万円までの贈与も非課税です。それも毎年可能なのです。
つまり今回の教育資金の一括贈与で税金を免れるようになったのは、まだ具体的な使い道のない資金を事前にまとめて贈与した場合に限られるのです。必要の都度行う教育資金援助は、以前から非課税なのです。
また、年間110万円までの贈与の非課税は、教育資金の一括贈与を使った場合も併用できます。ちなみにこの110万円の使途は、教育資金に限りません。貰った人の都合で何に使ってもいいのです。
そしてここが重要な点ですが、貰った孫が30歳になった時点で使いきれず残った金には、税率の高い贈与税が課せられます。
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図は、贈与税の早見表です。使い残った額が600万円なら82万円、1000万円なら231万円という高額な贈与税が課せられるのです。
結論から言えば、一括贈与の額は絶対使い切れるという額にとどめておき、不足分はその都度行う資金援助や110万円の非課税枠を使うのがベスト。1500万円の枠をすべて使うのが賢明とは思われません。せいぜい500万円までにとどめておくことをお薦めいたします。
参考までに、教育費の概算額を掲げておきます。
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資産家の活用術と庶民の活用術
ところで、この教育資金の一括贈与。使って確実に得するケースもあります。それは相続税がかかるほどの資産家の方で、110万円の贈与枠や住宅資金の贈与の特例など、他の節税策をやり尽くし、もう他に手段がない方です。
仮に孫など対象者が10人いれば、合わせて1億5千万円まで合法的に相続税の対象となる資産を減らせます。
使い切れなかった資金には贈与税が課せられますが、こうした資産家の相続税は贈与税に劣らないほど高い税率です。将来、贈与税を支払うはめになっても十分おつりがでるでしょう。この制度が、「一握りの資産家のための制度」という批判も的外れとは言えませんね。
一方、相続税が課せられるほどの資産のないわれわれ一般庶民はどうしたらよいでしょうか?
結論はズバリ、この制度は「使わないこと」です!
例えば、家族構成が妻と子供2人の場合(子供は独立済み)。相続税がアップする再来年(平成27年)1月以降、遺産が4800万円を超えると相続税がかかるようになります。資産が4800万円以下なら、あらゆる節税策は無意味です。そもそも対策をとる必要がないのです。
年を取れば医療費や介護費が嵩みます。われわれ庶民は、まず自身と配偶者の医療費と介護費をきっちり残しておきましょう。そのうえで余力があれば、その都度、孫などに資金援助をすればよいのではないでしょうか?
「かわいい孫への投資」などというキャッチフレーズにどうか心動かされないように。(執筆者:綾田 亨)