株式売却のタイミングは購入以上に難しいものです。早く売らなかったので損失がますます膨らんでしまったとか、売却した直後から株価が暴騰したのでせっかくの大儲けの機会を逃すといった経験をお持ちの方も多いと思います。私も過去40年間そんな経験を繰り返してまいりました。
はっきり言って株式売却のタイミングについて「決まったやり方」はありません。ただ成功している投資家は「自分なりの売却の判断基準」を持っていると確信しております。
私は5年、10年かけて株価が2倍、3倍に上昇することを目指す長期投資を理想にしておりますが、うまくいかず状況次第では早めに売却することもしょっちゅうあります。そういった試行錯誤の末に現在私が実践している売却の判断基準をご紹介させていただきます。
目次
1. 売るべきかどうかを判断する時は、なるべく買値を意識しない
短期・中期投資の場合は、10%とか20%にあらかじめ基準価格を決めておいて、その基準になったら売却して儲けや損を確定するというやり方も有効なのかもしれません。ただ私はなるべく買値は考えずあくまで現在の株価から将来を判断するようにしております。
米国で有名なカリスマ投資指南役のジム・クレイマー氏は「いくらで買ったかはどうでもいい。買値にとらわれては目が曇る。これから先どうなるかだけを考えて決めるべきである」と言っております。(「ジム・クレイマーの株式投資大作戦」日本経済新聞社より引用)
2. 先行きは長期投資家の立場から見て魅了的かどうかで判断
では先行きはどうやって判断したらよいのでしょうか? 私はマクロ的な経済状況はあまり気にしないで、あくまで自分の所有している株式が長期投資家からの立場で見てまだ魅了的かどうかで判断しております。特にその会社の財務比率、ROE、今後の収益見通しや成長性といったファンダメンタルやPER、PBR、市場の過熱度等のマーケットの視点から見て新規投資したくなるほど魅力的かどうかということです。
通常は次の3パターンに分けて判断しております。
(1)売却したい場合:
特に購入した時の前提条件が大きく変わった時です。ファンダメンタルの視点からは会社の主力商品が成長性を失い今後当分の間は成長が見込めないとか、かって健全な財務体質を誇っていたのが赤字続きで財務状況が相当悪化してきたような場合です。
マーケットの要因では市場全体が異常なほど過熱したりあるいは相場の大きなトレンドが明らかに上昇相場から下落相場に変わったと判断したような場合です。
(2)持ち続けたい場合:
良い前提条件は変わっておらず、依然としてその株が魅力的な場合です。ファンダメンタルやマーケットの視点から見てまだ割安だと考えた時は持ち続けるようにしております。資金的余裕やポートフォリオのバランス次第では買い増しすることもあります。
(3)売却か持続かの判断のつかない場合:
株価が上か下に大きく変動したが、ファンダメンタルはあまり変わっておらずどういう行動を取るべきか迷っているような場合です。このようなよくわからない場合は、とりあえず一部、たとえば半分とか3分の1とかを売却するようにしております。実はこのケースが最も多いのです。
余裕と自信をもってマーケットに対処する方法
こういった中途半端なやり方を取る理由は、自分の取った行動を正当化したいという心理が働くためか売却という行為をポジティブにとらえられるからです。
たとえば売ったあとにさらに下がった場合は「半分売って良かった」と思うし、逆に売ったあとに上がった場合は「まだ半分持っていて良かった」と思うからです。儲けの確定にしても、損切りにしても半分売ることによって心の余裕ができて残りの株に対してもより冷静に対処できるようになってまいります。
もしかしたらこういう心理は私だけでなく多くの方に共通するものではないでしょうか。どちらかというと損切りは早めに、利益確定はゆっくりとを心がけておりますが、なかなか完全には実行しきれておりません。ただ長年の試行錯誤を経て、このやり方を実践するようになってからは以前より自信をもってマーケットに対処できるようになった気がいたします。(執筆者:須原 國男)