個人事業主や賃貸不動産の経営者、そして会社経営者にとってはお馴染みの経費である減価償却費。
この減価償却費、実は経理処理の方法によって税金計算上の扱いが異なります。状況に応じた処理方法を選択することがポイントです。
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目次
減価償却資産の償却費計算の3つの方法
(1)原則的な減価償却費の計算方法
事業に必要な固定資産(建物や備品等)を取得した場合、その取得価額が10万円以上であれば原則として一度にその取得価額を経費にすることはできません。
その資産の種類に応じた耐用年数に応じて徐々に経費化していくことになります。例えば個人事業主がパソコンを事業年度途中の7月に15万円で取得した場合、その年の減価償却費は次のように計算します。
新品のパソコンの耐用年数…4年(定額法償却率0.250)
*事業供用月数(7月~12月の6月間)
(2)一括償却資産として処理する方法
固定資産の取得価額が10万円以上20万円未満の場合、原則的な減価償却費の計算方法にかえて「一括償却資産として処理する方法」が認められます。該当資産を3年間に渡って均等償却する方法です。
先程と同じように個人事業主がパソコンを15万円で取得した場合、償却費の計算は次のように行います。
事業年度の途中で該当資産を取得した場合においてもその事業年度の月数分(通常は12か月)を費用化できます。
ただし3年以内に取得した資産を使用しなくなった場合において、除却損や廃棄損、売却損などを計上することができないという点には注意が必要です。
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(3)少額減価償却資産の特例を利用する方法
青色申告をしている個人事業主(不動産所得者を含む)、および中小企業者等が10万円以上30万円未満の減価償却資産を取得した場合、その取得価額を一度に必要経費(中小企業者の場合は損金)とすることができる特例です。
ただしその合計額が年間300万円に達するまでという制限があります。さきほどのパソコンの場合、取得価額15万円を一度に必要経費とすることが可能です。
状況に応じた使い分けがポイント
上記3つの計算方法を比較した場合、少額減価償却資産の特例が一番有利であると考える方が多いのですが、一概にそうとは言えません。次のような理由により状況に応じて使い分けることが大切です。
一括償却資産は償却資産税の対象外となる
事業に使用している備品などの固定資産には償却資産税(固定資産税の一部)という税金がかかります。
原則的な償却計算を行っている固定資産はもちろん、少額減価償却資産の特例を利用して取得価額を一度に必要経費や損金にした固定資産にもかかってきます。
ただし一括償却資産として処理した場合については、この償却資産税の対象外となります。償却資産税の税率は1.4%(市区町村によって異なる場合あり)ですが、該当資産が大量にある場合は馬鹿にできない金額となり得ます。
赤字、あるいは利益があまり出ていない場合など
赤字である場合などは、中小企業者等の特例を利用しない方がいい場合があります。損益通算できるその他の所得の有無などを総合的に考えて処理方法を選択すべきです。
資産の取得価額別の処理方法
以下資産の取得価額別の処理方法についてまとめています。参考にして下さい。
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10万円未満、あるいは使用可能期間が1年未満
取得資産の取得価額が10万未満、あるいは使用可能期間が1年未満のものについては全額を消耗品費などとして処理して下さい。
10万円以上20万円未満の場合
事業の経営状況に応じて、3種の償却方法の中から選択することになります。多額の利益が出ている場合を除き、おすすめは一括償却資産として処理する方法です。
償却期間の短さ(耐用年数が3年以下の資産は非常にまれ)と償却資産税の課税対象外という2つのメリットを同時に受けることができます。
20万円以上30万円未満の場合
原則的な方法と少額減価償却資産の特例のどちらかを選択することになります。翌年度以降の処理の簡単さ等もあり特例を利用することのほうが多いのですが、赤字の場合などは原則的な方法を選択した方がいい場合もあります。
30万円以上の場合
原則的な方法により減価償却費の金額を計算することとなります。(執筆者:高垣 英紀)