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退職代行サービス

先日ニュースサイトを見ていたら、退職に関する勤務先の会社とのやり取りを、すべて任せられる「退職代行サービス」が、注目を集めているという記事が掲載されておりました。
このサービスを提供するのは「センシエス合同会社」であり、
1. 電話、メール、LINEなどで希望を伝える
2. 代金振込み
例えば会社員は5万円、アルバイトは4万円などの料金を、指定の口座に振り込む
3. 早ければ即日から対応
さらに詳しいサービスの内容や、過去の事例などについては、同会社の運営サイトである「EXIT」に記載されております。
過去の事例を読んでみると、退職代行サービスを依頼した日から、出社するのを止めてしまう方がいるようです。
このようにいきなり出社を止めると、社会保険と退職金に関しては、次のような点で不利になる可能性があるため、注意した方が良いと思います。
1. 離職票の入手が遅くなる
退職後に雇用保険の基本手当、いわゆる失業手当を受給するには、離職票が必要です。
雇用保険の資格喪失の手続きが終わった後に、郵送で自宅に送られてくる場合が多いため、いきなり出社を止めても入手できます。
従業員にいきなり退職され、納得していない勤務先の会社が嫌がらせで、
・ 雇用保険の資格喪失の手続きを故意に遅らせる
・ 手続きが済んでいるのに離職票の発送を、故意に遅らせる
また嫌がらせではなく人員不足により、社会保険の手続きが滞っている場合もあります。
離職票の入手が遅くなると、失業手当の支給開始が遅れてしまいます。
離職票が届かないときの対策

1. 退職代行サービスやハローワークに、離職票の発送を催促してもらう
2. ハローワークの職権で、離職票を発行してもらう
などの対策があると思います。
ただいずれかの方法で離職票を入手できたとしても、その入手が遅れた分だけ、失業手当の支給開始が遅れてしまうのです。
ですから失業手当の支給開始が遅れた時に備え、最低でも生活費の3か月分くらいの預貯金を、退職するまでに確保しておくのです。
また預貯金を十分に確保できなかった方は、「総合支援資金貸付」や「生活福祉資金貸付」などの公的な貸付制度を、利用できないのかを調べてみましょう。
2. 健康保険の資格喪失の手続きが遅れる
勤務先の会社で加入する健康保険の保険証は、扶養家族の分を含めて、退職する時に返却する必要がありますが、郵送でも返却はできるため、いきなり出社を止めても問題はありません。
ただ雇用保険と同じように、保険証が届いているにもかかわらず、健康保険の資格喪失の手続きを、故意に遅らせる場合があるのです。
それにより健康保険の資格喪失日を証明できる書類を、すぐに入手できなくなり、国民健康保険の加入手続きが滞ることで、新しい保険証を手にするのが遅くなります。
健康保険の資格喪失日を証明できる書類が届かないときの対策
保険証を簡易書留で送る、または保険証を返却する前に、コピーをとっておくなどが考えられます。
その理由として簡易書留で送ると勤務先の会社は、保険証が届いていないという言い訳ができなくなるからです。
また保険証のコピーがあると、健康保険組合の名称や、保険証の記号番号などがわかるため、市区町村の国民健康保険の担当者が、健康保険の資格喪失の有無を、調べやすくなるからです。
それに加えて保険証のコピーがあると、保険証の記号番号がわかるため、国民健康保険の被保険者ではなく、健康保険の「任意継続被保険者」になる場合には、その申請書をスムーズに記入できます。
3. 失業手当の給付制限をなくすため、在職中から準備を進めておく
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離職票を入手して失業手当の受給手続きを済ませても、自己都合で退職した場合には、たいてい3か月間の給付制限が付きますが、「特定受給資格者」に該当すると、この給付制限がなくなります。
例えば退職直前6か月間の残業時間が
・ 1か月で100 時間超
・ 2か月~6か月平均で月80時間超
の、いずれに当てはまる場合には、特定受給資格者に該当する可能性が出てきます。
また例えば労働契約の締結に際して明示された労働条件が、事実と著しく相違したことにより退職した場合にも、特定受給資格者に該当する可能性が出てきます。
ただ前者に当てはまることを証明するために、
・ タイムカードのコピー
・ 給与明細書
などが必要です。
また後者に当てはまることを証明するために、「採用条件及び労働条件が分かる労働契約書、就業規則など」が必要です。
この中の例えばタイムカードのコピーは、いきなり出社するのを止めてしまうと、入手するのが難しくなるので、事前に何が必要なのかを調べ、それを在職中に入手してから、退職代行サービスを依頼した方が良いです。
退職金からは税金が源泉徴収されるが、税制上の優遇措置がある
会社を退職する際に受け取る退職金からは、所得税や住民税が源泉徴収されます。
その計算方法は「(退職金の金額-退職所得控除額)×2分の1」により、まずは退職所得を算出し、それに所得税と住民税の税率を乗じます。
また退職金から控除する「退職所得控除額」は原則として、勤続年数によって次のように変わります。
勤続年数が20年以下の方
40万円 × 勤続年数(ただし80万円に満たない場合は80万円)
勤続年数が20年超の方
800万円+70万円 ×(勤続年数-20年)
このように退職金から源泉徴収される税金の計算においては、勤続年数に応じた退職所得控除額を控除できる、また課税されるのは2分の1という、税制上の優遇措置があるのです。
退職金から多めに源泉徴収された所得税は、確定申告で還付を受ける

こういった手順で源泉徴収する税金を計算するのは、退職する方が退職金の支払いを受けるまでに、勤務先の会社に対して、「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合です。
もし提出しなかった場合、所得税については退職金から、20.42%を源泉徴収するだけなので、勤続年数に応じた退職所得控除額を控除できず、また2分の1を乗じることもできません。
このような場合には自分で確定申告を行い、「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかったことにより、多めに源泉徴収された所得税の、還付を受ける必要があります。
退職代行サービスを依頼して、いきなり出社するのを止めてしまった方は、退職する時に提出が必要な書類の説明を受けられなかったなどの理由で、退職金の支払いを受けるまでに、この書類を提出できない場合があると思います。
そうすると上記のように、所得税が多めに源泉徴収されてしまうため、確定申告を行って還付を受ける必要があるのです。(執筆者:木村 公司)