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業績計画を下方修正 ライザップ株急落

昨年、株式市場を騒がせた銘柄は数多い。
今回はその中でもRIZAP(ライザップ)グループを取り上げ、株式投資をする際に損益計算書だけを見て判断することの危険性についてご説明したい。
「結果にコミット」というキャッチフレーズでおなじみのプライベートジム運営会社、ライザップ。
一方で株式市場では、赤字企業を次々と買収してグループ規模を拡大させるという経営手法でも名が通っている。
そんなライザップだが、昨年11月に株価が急落した。
きっかけは、同月に発表された今期業績計画の下方修正だ。
そのリリースでは、2019年3月期の連結営業損益計画が230億円の黒字から33億円の赤字へと大きく引き下げられた。
前2018年3月期の営業損益(135億円の黒字)と比べて7割近い大幅な増益をもともと計画していただけに、赤字転落見通しへの変更が投資家心理に与えるインパクトは非常に大きかった。
ライザップは業績計画の変更理由について、
として説明している。
これまで長らく増益を続けてきた成長企業にいったい何が起こったのか。
負ののれん積み上げという、砂上の楼閣
これまでのライザップの増益に大きく貢献してきたのは「負ののれん」と呼ばれる利益だった。
負ののれんとは、他社を買収する時にその会社の純資産(総資産から負債を差し引いた残額)の時価評価額よりも安い価格で純資産を購入できた場合の、その差額分を指す。
平たくいえば、他社を割安で買えた時のその割引き分であり、その額は損益計算書に「割安購入益」という名目で利益として計上される。
ライザップは割安価格で買いやすい赤字企業を長期に渡って数多く買収することで、利益を積み上げてきたのだ。
しかし、負ののれんはキャッシュ(現預金)の増加を伴わない利益だ。
投資の世界において「利益は意見、キャッシュは事実」といわれるように、損益計算書の利益は企業によって差こそあれ、キャッシュと比べて不確実性の高い数字である。
会計方針などを変えることで、合法的に赤字を黒字に見せることもできてしまう。

キャッシュからわかる、厳しい商売実態
「事実」と捉えられるキャッシュの方はどのような状態だったのであろうか。
2018年3月期、ライザップの営業キャッシュフローは8,800万円だった。
営業利益の136億円とは、非常に大きな差がある。
これは、
ということになる。
そして今回ライザップは、買収した企業の経営再建が遅れているという実態と今後の買収活動を凍結させる方針を明らかにした。
前者はいわずもがな、後者についてもこれまでの利益成長要因がなくなることを意味するので、結果として業績計画を下方修正せざるを得なかったという背景だ。
キャッシュフローへの着目は投資パフォーマンス改善につながる
昨年11月の株価急落で含み損を抱えた投資家も多くいると思われるが、今回のライザップの財務危機は営業キャッシュフロー(営業活動で生じるキャッシュの増減)に着目することで事前にある程度推察できた可能性が高い。
メディアなどで企業の業績が報じられる際は、売上高や営業利益など損益計算書の項目が取り上げられることがほとんどだが、キャッシュフロー計算書にも目を配ることで、投資パフォーマンスを改善できる。
特に、これまでのライザップのような買収が盛んな企業に投資しようと考えた際には、ぜひとも気を付けたいポイントである。(執筆者:高橋 清志)