先日ニュースサイトの中に掲載されていた、ある大学教授のコラムを読んでいたら、
という話が記載されておりました。
その理由について学生に質問したところ、
と回答したそうです。
学生であれば収入は少ないはずなので、個人年金保険の月々の保険料を支払っていくのは、けっこう大変ではないかと思います。
そのためいずれ保険料を支払えなくなり、早期で解約して元本割れになるという、悪い結果を想像してしまいます。
またこれから住宅の購入費や子供の教育費などで、お金が必要になるのですから、老後まで手を付けられない個人年金保険より、すぐに使える預貯金、またはつみたてNISAで、お金を貯めた方が良いと思うのです。
なぜ公的年金に対する不安を解消する手段として、この学生が個人年金保険を選んだ理由について考えてみると、2005年に発覚した大規模な保険金の不払い問題を知らない世代のため、上の世代より生命保険会社を信頼しているのかもしれません。
また保険金の不払い問題は、現在でもたまに報道されておりますが、公的年金の不払いに比べると、圧倒的に取り扱いが少ないと思います。
おそらくマスコミにとって、生命保険会社は有力なスポンサーのため、批判的な内容は報道しづらいのかもしれません。
そのためこの学生は公的年金よりも、個人年金保険の方が信頼できると思ったのかもしれませんが、次のような理由により、公的年金と個人年金保険の危機は、同時にやってくると思うのです。

目次
生命保険会社の格付けは、日本国債の格付けの影響を受けてしまう
生命保険会社の健全性を表す指標として、「ソルベンシーマージン比率」や「格付け」があります。
前者のソルベンシーマージン比率は数字が大きいほど、通常の予測以上に発生したリスクに対する、支払余力があると判断されます。
また200%を下回ると監督当局によって、早期に経営の健全性の回復を図るための措置がとられるのです。
一方で後者の格付けは、S&P、ムーディーズ、フィッチなどの格付け会社が、専門的な調査を行ったうえで、それぞれの生命保険会社の保険財務力や保険金支払能力を評価し、アルファベットなどの簡単な記号でランク付けしたものです。
一般的には「AAA」が最上位の格付けとなり、また少なくとも「BBB」以上の生命保険会社を、選んだ方が良いとされております。
生命保険会社の格付けが引き下げられても、報道されることは少ないと思いますが、日本国債の格付けが引き下げられると、よく報道されて話題になります。
個人的にもっとも記憶に残っているのは、2015年9月にS&Pが日本国債の格付けを、韓国より低い「A+」に引き下げした時です。
このように日本国債の格付けが引き下げられる時に、生命保険会社の格付けも、一緒に引き下げられる場合が多いです。
その理由として生命保険会社は、顧客が預かった資金の多くを、日本国債で運用しているため、日本国債の格付けが引き下げられると、影響を受けてしまうからです。
日本の財政が悪化すると、生命保険会社の財政も悪化する可能性がある

冒頭で紹介した大学生が懸念するような、公的年金がもらえない、または公的年金が破綻するような状況になったとしたら、日本の財政はかなり危険な状況のため、日本国債の格付けは大幅に引き下げられると思います。
これを受けて生命保険会社の格付けも、一緒に引き下げられる可能性があるのです。
また公的年金がもらえない、または公的年金が破綻するほど、国にお金がなくなったら、生命保険会社は顧客から預かった資金で購入した、日本国債の元本や利子の一部を、受け取れないかもしれません。
例えばギリシャが財政危機に陥った際には、公務員の給与や国民の年金が削減されただけでなく、ギリシャ国債を保有する金融機関などは、元本の53.5%の自主的な放棄を求められました。
そうなると今度は生命保険会社の財政が悪化していき、破綻するところが出てくるかもしれません。
過去に生命保険会社が破綻した際には、別の生命保険会社に保険契約が引き継がれる時に、契約内容が大幅に変更され、個人年金保険の年金額が半分になったケースもありました。
ですから公的年金と個人年金保険の危機は、同時にやってくる可能性があるのです。
ハイパーインフレの発生で、個人年金保険の実質的な価値は低下する
日本の財政が上記のように悪化したら、日本円は信頼をなくして売られるため、円安が進んでいくと考えられます。
また財政赤字を穴埋めする目的で、日銀が紙幣を大量に印刷した場合には、更に円安が進んでいくと考えられます。
これらを受けて輸入品価格が暴騰した場合には、ハイパーインフレ(超高率の物価上昇)が発生する可能性があります。
一般的な円建ての個人年金保険は、将来に受給できる年金額が契約時に確定しているため、インフレになっても年金額は増えません。
そのため個人年金保険から、契約通りに年金が支払われたとしても、年金の実質的な価値が低下するため、その年金で買えるものは少なくなります。
ですから自分が加入する生命保険会社が、破綻を免れたとしても、別の意味で問題があるのです。
財政危機とインフレを考慮して、金融商品を選択する必要がある

このように日本国債を保有していると多かれ少なかれ、日本の財政状況の影響を受けてしまいます。
ですから公的年金がもらえない、または公的年金が破綻するような財政状況に、日本が陥ると予想するなら、日本国債が含まれていない金融商品で、運用した方が良いと思います。
またハイパーインフレになった時に備え、株式、不動産、コモディティ(金、銀、プラチナなど)などの、インフレに強い資産が含まれている金融商品を、保有しておいた方が良いと思います。
それに加えて大学生であれば、少額から始められる金融商品、または将来にお金が必要になるかもしれないので、すぐに止められて、すぐに使える金融商品を選びたいところです。
例えばつみたてNISAを通じて、株式やリートが組み入れられた投資信託(日本の株式やリートだけのものは除く)を購入すれば、これらの要件を満たせると思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)