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倒産件数減少に見え隠れする将来の不安
この度、帝国データバンクが発表した「2019年上半期の倒産件数」によりますと、上半期の倒産件数は、3,998件(前年同期4,029件と比較して0.8%減)で、2年連続で前年同期を下回ったようです。
また、上半期の負債総額は7507億6,000万円(前年同期9,111億1,700万円、前年同期比17.6%減)と、2年連続の前年同期比減少となり、上半期としては2000年以降最小となった模様です。(参考元:帝国データバンク)
このような発表を見聞きしますと、日本の経済情勢は「倒産件数も負債額も減少気味で何やら安泰な感じ」に思われる向きも多いことでしょう。
しかしながら、筆者はあえてこの「ぬるま湯」的な感じがする間、すなわち「なんとなく楽観論が蔓延する間」に、迫りくる危機を想定し「次の打ち手」を考える必要性を提唱しています。
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理由1:「2019年上半期の倒産件数」
確かに大見出しだけ見ると「件数も負債額も減少しているんだな」で終わってしまうことでしょう。
しかし、これを地域別に見ると、(四国、九州地区など)9地域中5地域で前年同期の倒産件数を「上回って」いるのです。
さらに、今回倒産件数が下回っている4地域として、
北海道… 121件、前年同期比2.4%減:インバウンドをはじめとする観光需要の拡大などを受けたため
中部… 547件、同12.1%減:建設業のほか、自動車関連を中心に堅調な推移が続いたため
などがその理由とともに挙げられていました。
ですが今後を見据えると、日韓問題をはじめとしたインバウンド需要の先細り、東京五輪後の建設需要の低迷、日米貿易摩擦などのあおりを受けた自動車業界への悪影響など…どう考えても今後倒産件数が増えてくるような気がします。
理由2:「中規模クラスの倒産が10年ぶりに増加」
もう少し詳しく言うと、「負債1億円以上の倒産が1,012件で前年同期比4.7%増となり、2009年上半期(同22.2%増)以来10年ぶりの前年同期比プラスに転じた」ということです。
これは、先述の「ぬるま湯的な経済」のもと、有利子負債を増やした企業が計画通りの収益を確保できなくなり、負債をさらに膨らませたことなどが主な要因と考えられます。
このように中規模クラスの倒産が増えてくるということは、先々その下請けやさらにその下請けといった(日本の企業数の99%以上を占めると言われる)小規模企業への波及は時間の問題ではないでしょうか。
日本の社債市場でも同じことが起こっている
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「なんとなく楽観論が蔓延」という点では、日本の社債市場にも同じことが言えると思います。
今年は、米国が3年ぶり、中国が2年ぶりの悪化というほど、次々と格下げ企業が広がる米国や中国と比較して、日本の社債市場や格付けの動向は、一見「ベタ凪状態」だからです。
参考元:日本経済新聞
しかしながら、日本の場合、企業の資金調達は基本的に間接金融(銀行からの借り入れ)が主であり、格付けを取得しようとする企業は「財務への不安が少ない優良企業」が中心だということを忘れてはならないと思います。
日本の企業数の99%以上を占める中小企業にとって、「格付け取得の意味やその社債を取引するハイイールド市場は基本的に存在しない」と考えてよく、そもそも論で、格下げ問題などで社債市場が大きく波立つことはない=「ベタ凪状態」に見えるのも当たり前といえば当たり前の話です。
ところが、倒産件数のところでも述べたように、地方や一部の中規模企業ではすでに危機の始まりが起きているわけです。
人件費や物流費、原材料費などが上昇基調のなか、コスト負担を転嫁できずに利益を確保できていない企業も多く、今後、地方から都市部へ、中規模クラスから小規模企業への波及が続き、倒産件数全体を押し上げる可能性が高いと思います。
どんな危機やリスクも、もうすぐそこに迫って来てからでは、たじろぎ呆然としてしまうことでしょう。
つまり、「ぬるま湯」的な感じがする間、「なんとなく楽観論が蔓延する間」の「今のうち」に、水面下で迫りくる潜在的リスクについて知っておくこと、それに備えておくことは重要なことだと考えています。(執筆者:阿部 重利)