先日ニュースサイトを開いていたら、「厚生年金基金が実質廃止」というタイトルの記事が掲載されておりました。
このタイトルを見て、ついに厚生年金保険が廃止されるのかと思い、驚いた方がいるかもしれません。
しかしピーク時の約1,900から、残り8つだけになり、実質的な廃止状態になっているのは、企業年金(各企業が福利厚生として、公的年金の上乗せを支給する制度)に分類される厚生年金基金であり、公的年金に分類される厚生年金保険ではありません。
また確定給付企業年金(規約型、基金型)、企業型の確定拠出年金、中小企業退職金共済などの移行先があるため、厚生年金基金が廃止されても、企業年金がなくなるわけではありません。
ただ企業年金の実施は義務ではないため、他の制度に移行しないで、企業年金を止めてしまう場合もあります。
また他の制度に移行したとしても、企業年金を受給するためには、各制度に対して請求する必要があります。
ですから勤務先の就業規則や、その一部である退職金規程などを開いて、勤務先が企業年金を実施しているのか、またどの企業年金を実施しているのかを、確認しておいた方が良いのです。
なお企業年金だけでなく公的年金も、請求しなければ受給できないという「申請主義」をとっているため、両者は悪い面で共通点があると思います。
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目次
企業年金から支給される給付金は、老齢に関するものだけではない
会社員や公務員などのうち、厚生年金保険に加入している方に対しては、原則65歳になると国民年金から「老齢基礎年金」が支給され、また厚生年金保険から「老齢厚生年金」が支給されます。
こういった老齢年金に関する情報は、ねんきん定期便などに記載されているため、よく知られていると思うのですが、公的年金から支給される年金は、これだけではありません。
例えば
・ 一定の障害状態になった時に支給される… 障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金など)
・ 公的年金の加入者が死亡した時に、一定の遺族に対して支給される… 遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金、寡婦年金など)
このように公的年金から支給される年金は、老齢、障害、遺族の3種類に分かれているのですが、厚生年金基金などの企業年金から支給される給付金(年金、一時金)も、これと似ているところがあります。
つまり老齢に関する給付金だけでなく、障害や遺族に関する給付金が支給される場合があります。
これは良い共通点だと思いますので、勤務先が実施している企業年金の種類を調べる際には、給付金の種類についても調べておきたいところです。
老齢年金と老齢に関する給付金は、税制上で同じような取り扱いになる
公的年金から支給される年金のうち、障害年金と遺族年金は非課税です。
一方で老齢年金だけは所得税などが課税されるのですが、これの合計額から「公的年金等控除額」を控除できるという、税制上の優遇があります。
そのため老齢年金の合計額が、公的年金等控除額の範囲内に収まれば、課税される心配はありません。
ただ厚生年金基金などの企業年金から支給される、老齢に関する給付金を受給できる場合には、これと老齢年金の合計額から、公的年金等控除額を控除するため、老齢年金だけを受給するケースより、課税されやすくなります。
また公的年金等の収入の合計額が400万円以下で、かつ公的年金等以外の所得が20万円以下の場合には、「年金受給者の確定申告不要制度」を利用できます。
そのため老齢年金の合計額が400万円以下の場合には、確定申告をしなくても良いのです。
ただ厚生年金基金などの企業年金から支給される、老齢に関する給付金を受給できる場合には、これと老齢年金の合計額が400万円以下というのが基準になるため、老齢年金だけを受給するケースより、確定申告の可能性が高くなります。
これらは悪い共通点と考えられますが、老齢に関する給付金を一時金で受け取る、または一時金と年金の併用で受け取れば、課税を回避できたり、確定申告を不要にできたりする場合があります。
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厚生年金保険と厚生年金基金は、代行部分を通じてつながっている
厚生年金基金が他の企業年金と大きく違うのは、公的年金の上乗せだけでなく、本来は国が支給する老齢厚生年金の一部を、代行して支給している点です。
つまり厚生年金保険と厚生年金基金は、まったく別の制度ながら、どちらも老齢厚生年金を支給しているという共通点があります。
また厚生年金基金は代行部分を支給するための資産を確保するため、厚生年金保険の加入者の給与から控除された保険料の一部を、国の代わりに受け取っています。
そしてこれを国債や株式などで運用し、代行部分を支給するための資産を確保した後に余りが生じれば、公的年金の上乗せを支給するための資産として使えます。
ですから代行部分は厚生年金基金にとっての、大きなメリットだったのですが、バブル崩壊後は運用がうまくいかなくなったので、代行部分を支給するための資産を確保するのが、難しくなってきました。
厚生年金基金の解散時期により、代行部分の請求先を変える必要がある
このような問題を放置しておくと厚生年金基金の加入員が、代行部分を受給できなくなる可能性があります。
そこで国は2013年に法改正を実施して、代行返上(代行部分を返上して、確定給付企業年金に移行する)や、厚生年金基金の解散を促進したのです。
この法改正の後に、代行返上か解散のいずれを選択しても、代行部分を支給するための資産を、一括か分割で国に引き渡す必要があり、また厚生年金基金は上記のように、残り8つだけになっております。
ですから代行部分を支給するための資産が確保できないという問題は、以前より解消しているのですが、それでも代行部分を受給できない方は、以前よりあまり減らない可能性があります。
例えば厚生年金基金が解散したのが、2014年3月31日以前の場合、代行部分と公的年金の上乗せを支給するための資産の両者が、企業年金連合会に引き渡されるため、こちらに請求する必要があります。
一方で厚生年金基金が解散したのが、2014年4月1日以降の場合、代行部分を支給するための資産は、上記のように国に引き渡されますが、公的年金の上乗せを支給するための資産は、企業年金連合会に引き渡されるのです。
そのため代行部分は国に、公的年金の上乗せ部分は企業年金連合会に請求する必要があります。
このように請求先が複雑になったので、代行部分を受給できない方が、以前よりあまり減らない可能性があります。
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またどちらに請求すれば良いのかがわからない方は、企業年金連合会のウェブサイトの中にある、「企業年金連合会の年金記録の確認」というページを、利用してみるのが良いと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)