保険業界で、脅威となっている問題があります。
それは、
ということです。
中でも最も深刻なのが「受取人が認知症になっている」ケースです。
認知症の症状にもよりますが、「本人の意思表示ができない・判断能力がない」場合、そのままでは保険金受け取り手続きを完了させることができません。
つまり、「受取人が認知症になると、受け取ることができなくなる」のです。
では、どうすればいいのでしょうか。
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目次
受け取り手続きで必要なことは何か
まず、受け取り手続きで必要なことを確認しておきましょう。
少し前までは、保険金の受け取り手続きといえば「保険証券・印鑑・身分証明書」が必須アイテムでした。
しかし最近は印鑑を不要とし「タブレット型PC上に直接サイン」する保険会社も増えました。
手段は変わっても、手続き時に確認する項目に変わりはありません。
・ 受取人名義の保険金受取口座が用意されていること
・ 契約内容や受取金額などの説明に納得・同意し、自署ができること
この3点が確認できない場合は、受け取り手続きが完了しないということです。
自署が難しい場合
判断力には問題がなくても、年齢やけが・病気などの理由によって、自署が難しいこともあるでしょう。
その場合は、どうなるのでしょうか。
聞こえない・聞こえづらい場合
受け取り手続きに必要なことは文書化されていますし、視力や判断能力に問題がないのであれば、それほど心配はいらないでしょう。
耳も目も…という場合は、以下を参考にしてください。
見えづらい場合
手続き時、受取金額や受け取り方などの「重要な項目」は保険会社職員が読み上げて相互確認することが義務づけられています。
視力に不安がない場合は、示された書類を見ながら確認できるのですが、見えない場合はそうもいきません。
見え方によっては、サポートできるご家族が同席しましょう。
「見えづらい」程度によりますが、ほとんど場合は自署でのサインを求められます。
原則、代筆はできません。
サポートするご家族が、手を添えてサインスペースまで導いてあげましょう。
次の項目で触れますが、「ほとんど見えない」場合は、代筆を認めている保険会社もあります。
手が動かない場合
手や指の動きが不自由になり、うまくペンが持てない場合もあるでしょう。
サインは上手に書く必要はありません。
線が震えていようが、利き手と逆だろうが、少しでも書ける場合は、代筆はできません。
どうしても書けない状態である場合は、代筆が認められる場合もあります。
代筆が認められる場合
視力や手指の状態によって、「どうしても書けない」ことが明らかである場合は、ご家族による代筆が認められることもあります。
ただし、受取人の判断能力に問題がない場合に限ります。
また、事前にその旨を保険会社に伝えておく必要があります。
当日、現場で初めて「代筆でお願いします」と伝えても、現場の職員には決定権がありません。
会社とのやりとりで長時間待たされるか、後日あらためて行うことになるでしょう。
また、受取人と代筆者の関係を証明する書類が必要な場合もあります。
必ず事前連絡をして準備しておきましょう。
このように、手続きがスムーズに進まないと思われる状態でも、事前連絡をしておくことでなんとかなるケースは多いものです。
しかしながら、繰り返しますが「受取人の判断能力に問題がない」ことが絶対条件です。
では、その条件が満たせない場合は、どうなってしまうのでしょうか。
受取人の判断能力がない場合
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・ 同様に、受取人に判断能力がない場合
この場合は、受け取り手続きができません。
確認すべき3項目が、確認できないからです。
代筆やサポートは認められません。
なぜなら、そのことを被保険者や受取人が望んでいるかどうかの確認ができないからです。
「指定代理請求人」なら、請求できる
前もって「指定代理請求人」を登録しておくことが、いちばんです。
何らかの事情により「受取人では請求手続きができない」と判断される場合でも、代わりに手続きを行うことができる唯一の人物が「指定代理請求人」なのです。
「代筆が必要かもしれない」と不安な状態でも、指定代理請求人がいれば、手続きそのものを代行できます。
指定代理請求人がいない場合は、残念ながら通常の手続きでは受け取ることができません。
手続きを進めるためには、成年後見人を立てることになるでしょう。
成年後見人を立てるためには費用がかかる
成年後見人選任のためには、家庭裁判所で「後見開始の審判」の申し立てを行います。
受取人に「判断能力がない」ことを証明する診断書をはじめとするさまざまな書類・証書・収入印紙などを準備する必要があり、時間も手間も費用もかかります。
財産管理を任せる方法としては、「家族信託」や「生命保険信託」などもありますが、どちらも受取人本人が手続きを行う必要があります。
つまり、判断能力が低下してからでは、もうどうにもならないということです。
元気なうちに「指定代理請求人」を登録しておくことが大切
近年の契約では、新規契約時に受取人と指定代理請求人を決めておくことがほとんどです。
しかしながら、年金や終身保険などの貯蓄商品は10年20年単位でかけていることが多いため、指定代理請求人が指定されていない場合もあります。
保険証券に記載されていますので、必ず確認しておきましょう。
せっかく保険料を払っていたのですから、確実に受け取れる方法を考えておきましょう。(執筆者:仲村 希)