認知症と診断された方の財産を守る制度として最もポピュラーなのは、「成年後見制度」でしょう。
しかし、成年後見人の選任を家庭裁判所へ申し立てると、たとえ親族が後見人への就任を希望しても、弁護士や司法書士などの専門家が後見人として選任される例が多く見られます。
専門家が後見人となると、安くない報酬を被後見人の財産の中から支払わなければなりません。
下手をすると、報酬だけで被後見人の財産の全部または大半がなくなってしまう可能性もあるのです。
高齢の親の財産を守るために後見人を選任したのに、将来相続できるはずだった財産が報酬のためになくなってしまったのでは家族としてもやりきれないことでしょう。
そこで今回は、認知症となった方の財産を守るためのいくつかの制度について、費用の面で比較してみたいと思います。

目次
「成年後見制度」の大きなデメリット
成年後見人は、被後見人の法定代理人として全ての法律行為を代理できます。
したがって、成年後見制度は、認知症で判断能力が低下した方の財産を守るために最も適した制度であるといえます。
しかし、専門家が後見人となった場合には報酬を支払わなければならないというデメリットがあります。
また、それまで面識がなかった第3者が後見人となっても、被後見人とのコミュニケーションが円滑に図れるとは限りません。
家族は被後見人の財産状況を確認することができなくなりますし、親族のイベントのために被後見人のお金を少し使わせてほしいと思っても後見人に断られてしまいます。
このように、
専門家が後見人に選任されてしまったからといって異議を申し立てることはできませんし、解任することもまず不可能です。
申立てを取り下げることすら家庭裁判所の許可なしにはできず、家庭裁判所は簡単には許可しません。
つまり、被後見人が亡くなるまで第3者である後見人がずっと付くことになってしまうのです。
大半のケースで専門家が後見人に選任されている
裁判所のホームページで公表されているデータによると、平成30年に親族が後見人に選任されたのはわずか23.2%です。
残りの76.8%は専門家等が後見人に選任されているのです。
参照元:裁判所
成年後見制度が始まった頃は、ほとんどのケースで親族が後見人に選任されていました。
しかし、家庭裁判所は後見人による不正防止等の目的で、できる限り専門家を後見人に選任する運用を進めてきました。
その結果、親族が後見人への就任を希望しているにもかかわらず、専門家が後見人として選任されるケースが年々増え続けたのです。
それだけに、
があるのです。
なお、最高裁判所は2019年3月、成年後見人には身近な親族を選任することが望ましいという意向を発表しましたが、今後どのような運用になるかは分かりません。
親族が選任されるケースも多少は増えるでしょうが、運用が急に大きく変わることはないと考えられます。
以上が、成年後見人の大きなメリットの裏に潜む大きなデメリットです。
ここからは、成年後見人と他の制度を費用の面で比較していきましょう。
1. 成年後見人の選任は多額の費用がかかる可能性が高い
弁護士や司法書士などの専門家が後見人となった場合の報酬の目安は、東京家庭裁判所等が以下のとおり公表しています。
参照元:東京家庭裁判所(pdf)
・ 財産管理額が1,000万円超~5,000万円以下の場合には、月額3~4万円
・ 財産管理額が5,000万円超の場合には、月額5~6万円
仮に月額2万円とすれば、被後見人が10年で亡くなった場合の報酬総額は240万円です。
月額2万円で済むのは財産管理額が1,000万円以内のケースと想定されていますから、被後見人の財産のうち相当な部分が報酬として消えてしまう可能性があります。
月額6万円で被後見人が30年生存したとすれば、2,160万円もの報酬がかかってしまいます。
家庭裁判所の運用が変わらない限りは、被後見人が亡くなるまで、前述の報酬の負担を免れることはできないのです。
親族が後見人となれば、このような報酬はかからないので理想的な認知症対策といえます。
しかし、
のです。

2.「任意後見契約」もある程度の費用がかかる
「任意後見契約」とは、本人が十分な判断能力を有しているうちに、将来認知症などで判断能力が低下したときに後見人となってもらうことを特定の人と約束することを言います。
公正証書で任意後見契約をしておけば、約束した人が将来確実に後見人に就任できます。
ただし、
があります。
そして、任意後見人が行う後見事務は、成年後見監督人によるチェックを受けなければなりません。
成年後見監督人には弁護士や司法書士などの専門家が選任されるので、やはり報酬を支払う必要があります。
ただ、その報酬額の相場は、成年後見人の報酬額のおおよそ半額程度です。
先ほど紹介した東京家庭裁判所等が公表している報酬目安には、次のように記載されています。
・ 管理財産額が5,000万円を超える場合 月額2.5~3万円
3.「家族信託」が最も安価となる可能性が高い
認知症になった人の財産を守るためには、最近登場した「家族信託」という制度もあります。
「家族信託」も、本人が十分な判断能力を有するうちに、将来認知症などで判断能力が低下した後の財産の管理や処分を託すものです。
成年後見人や任意後見人と異なるのは、家庭裁判所は関与せず、信託契約などによって家族に財産の管理や処分に関する権限を付与することができることです。
信託契約は公正証書にしておくのが望ましいのですが、必ずしも公正証書にする必要はありません。
です。
家族信託で最も重要なのは「信託契約にどのような内容を盛り込むか」です。
契約内容を適切にするために、弁護士や司法書士などのコンサルティングを受ける方が多く見られます。
他にも、公正証書を作成する場合にはその費用、不動産がある場合には登録免許税や投機を依頼する費用などがかかることがあります。
以上の費用をトータルすると、50~100万円程度かかるケースが多いようです。
全ての手続きを自分で行う場合には公正証書の作成費と登録免許税だけで済みますし、公正証書も作成せず、不動産もない場合はほとんど費用はかかりません。
仮に
場合が多いと言えます。
親族が成年後見人に就任するのがベスト
3つの制度を比較すると、親族が成年後見人に就任するのがベストです。
ただし、親族が就任できるかどうかは家庭裁判所へ申し立ててみないと分からず、可能性が高くないのが悩ましいところです。
次に費用の面で有利なのは家族信託と言えそうですが、被後見人の生存年数によっては任意後見人の方が有利になるケースもあります。
なお、既に認知症と診断された方の財産を守るには、成年後見人の選任を申し立てる他ありません。
その場合には、少しでも親族が後見人に選任される可能性を高めるために、弁護士に相談してみるとよいでしょう。(執筆者:川端 克成)