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日本の有給休暇制度について
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日本の有給休暇取得率は、久しぶりに50%を超えてきたところです。
有給休暇取得ほぼ100%のドイツでは休暇は義務、フランスでは休暇は長期でなければならないという考え方です。
これは国民性にもよるので一概には言えませんが、日本の労働生産性は他の先進諸国に大きく水をあけられています。
今回は、有給休暇中に支払われる「賃金」はどのようなロジックで支払われるのかを説明します。
有給休暇取得時の賃金支払い方法は次の3パターンです。
2. 平均賃金
3. 健康保険法40条第1項で定める標準報酬月額の1/30に相当する金額(労使協定必要)
実務上は1.>2.>3.と考えます。
3.を使用しているのは、極めてレアケースです。
そして、多くの会社では1.を採用しています。
有給休暇取得時の賃金は、上記の3つの選択肢の中からいずれかで支払う必要があります。
また、どれを採用するかは、就業規則などで決めておく必要があります。
参考までに関連する以下の行政解釈も確認しておきましょう。
「年次有給休暇の賃金の選択は、手続簡素化の見地より認められたものであるから、労働者各人についてその都度使用者の恣意的選択を認めるものではなく、平均賃金と所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金との選択は、就業規則その他によって予め定めるところにより、又健康保険法3条に定める標準報酬日額に相当する金額の選択は、法第36条の時間外労働協定と同様の労使協定を行い、年次有給休暇の際の賃金としてこれを就業規則に定めておかなければならないこと。又この選択がなされた場合には、必ずその選択された方法による賃金を支払わなければならないこと。」(昭和27.9.20 基発第675号、 平11.3.31 基発168号)
労働基準法
有給を使った日の賃金が最低賃金を下回ることは違法なのか
直ちに違法とは言えません。
1. 所定労働時間労働した場合に支払われる「通常の賃金」は、「所定労働時間」労働したものとみなして賃金が支払われます。
アルバイトであっても有給休暇は要件を満たせば発生します。
月の所定労働日数が月によって変動する時給制のアルバイトの方が有休を使った日の賃金が時間換算すると最低賃金を下回っていました。
これは違法なのでしょうか。
前述の有給休暇時の賃金支払い方法を具体的に確認していきましょう。
2. 平均賃金は、3か月の賃金総額をその期間の総歴日数で除した額(労基法12条)が原則です。
3. 健康保険法40条第1項で定める標準報酬月額の30分の1に相当する金額(労使協定必要)は、最もレアケースです。
社会保険に加入している前提で、例えば報酬月額が17万5,000円以上18万5,000円未満の場合は、標準報酬月額等級は15等級で「標準報酬月額」は18万円です。18万円を1/30した額が1日当たり(6,000円)の額です。
2. 平均賃金は、日給、時給制の場合などは、原則で計算した額と最低保障額を比較する仕組みがあります。
これは労働日数が少ない場合、3か月の総歴日数で除してしまうと1日あたりの額が低くなってしまう恐れがある為です。
平均賃金 = 賃金総額(算定事由の発生した日以前3か月間に支払われたもの)/総日数(算定事由の発生した日以前3か月間)
※算定事由の発生した日について、有給休暇の場合は、有給休暇を与えた日(2日以上の期間にわたるときは初日)です。
賃金の総額/労働日数 × 60/100
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賃金総額に算入しない賃金等
・ 臨時に支払われた賃金(※)
・ 3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(いわゆるボーナスなど)
・ 通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないもの(法令又は労働協約の別段の定めに基づかない現物給与)
具体的には お見舞金や私傷病手当などです。
「臨時的、突発事由にもとづいて支払われたもの、及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が未確定でありかつ非常に稀に発生するものをいうこと。名称の如何にかかわらず、右に該当しないものは臨時に支払われた賃金とはみなさないこと。」(昭和22.9.13基発第17号)
労働基準法
算定事由の発生した日以前
「以前」となっていますが、発生日はいれません。
算定事由発生日には、すでに労働の提供が完全になされていないことが多く、時給制の場合は、既に賃金を全額支払われないことが多いので、算入した結果、平均賃金が低くなってしまう点が否めません。
また、民法140条(暦法的計算による期間の起算日)の初日不算入の原則からきているものとも推察します。
(期間の起算)
第百四十条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。民法
例:5月15日の有給の場合は、5月14日から2月15日(閏年は注意)という考え方です。
1. 所定労働時間労働した場合に支払われる「通常の賃金」は、所定労働時間中のことを指していますので、残業代は含みませんが、2. 平均賃金は残業代や通勤手当(1か月あたりに換算)も含みます。
結論としては、
ということです。
※「通常の賃金」とした場合に、最低賃金以上で、平均賃金も正しく計算されていることが前提
日によって、働く時間が異なる時給制の場合の「通常の賃金」とは
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曜日によって働く時間が異なる場合の通常の賃金とは、「各日の」所定労働時間に応じた賃金を支給すればよいとされています。
曜日によって労働時間が異なる場合、どの日に有給を使ったら損しないのか
アルバイトで曜日によって所定労働時間が異なる場合、前述のように「各日の」所定労働時間に応じた賃金を支給することとなり、最も所定労働時間が長い日を狙って取得した方がお得と言えます。
例えば所定労働時間が4時間の日、8時間の日、同じ休暇であっても、後者の方は8時間分の賃金となるからです。
平均賃金(残業なしと仮定)を採用している場合(又は平均賃金へ変更した場合)を検証
所定労働時間が4時間である日も8時間である日も平均賃金ゆえに「支払われる額は同じ」です。
この場合、4時間の日に取得が増えると考えます。
4時間と8時間を平均して算出された額となる為に、通常の賃金と比較すると平均賃金の方が多くなるからです。
4時間の日に取得した方がお得と言えますが、4時間の日に休むと8時間働く日が残されていますので、当然体は休めません。
お金のことのみを考えると考慮しておいても損はないと言えます。
8時間の日に取得すると4時間と8時間を平均して算出された額となるので、通常の賃金と比較すると低くなることが多い。
働く時間を変更した時の「通常の賃金」はどうなるのか
例えば所定労働時間が4時間から6時間に変更になりました。
が問題になります。
この場合は、有給休暇が発生した時期ではなく、有給休暇を取得した時期の所定労働時間に応じた「通常の賃金」を支払うことです。
つまり設問の場合は、6時間分の賃金を支払う必要があります。
深夜勤務の場合、有給取得すると「通常の賃金」には深夜割増はつくのか
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「通常の賃金」には、臨時に支払われる賃金、割増賃金のように所定労働時間外の労働に対して支払われる賃金は算入されません。
しかし、深夜に働くこと自体が通常の所定労働時間内の労働の場合、「深夜労働に対する割増賃金を含んだ」賃金を支払わなければなりません。(執筆者:社会保険労務士 蓑田 真吾)