働き方改革により、通常の労働時間制以外の方法で働いている方も増えてきました。
特に、フレックスタイム制は、子育てや介護に追われる方にとっては、柔軟な勤務時間で働けるため、非常にありがたい制度です。
もっとも、フレックスタイム制での残業時間の計算は、通常の労働時間制の場合と異なる配慮が必要になります。
あなたの残業代が正確な金額かどうかを知るために、今回はフレックスタイム制の残業代について説明します。

目次
残業代を計算するための基礎知識
フレックスタイム制の場合と通常の労働時間制の場合とで残業代計算の方法で共通する部分もあります。
まずは、残業代を計算するための基礎知識について説明します。
(ア)残業についての2つの定義
残業という言葉について、法律上は2つの定義があります。
1つは、「法定時間外労働(法外労働)」といって、労働基準法所定の法定労働時間を超えた残業です。
そして、もう1つは、「法定時間内労働(法内労働)」といって、所定労働時間を超えてはいるものの、労働基準法所定の法定労働時間内の残業です。
法定時間外労働と法定時間内労働との違いは、労働基準法所定の割増賃金を支払わなければならないかどうかという点です。
割増賃金の支払い義務があるのは、あくまでも労働基準法所定の労働時間を超えた法定時間外労働の場合です。
(イ)基礎賃金の計算方法
残業代を計算するには、まずは1時間あたりの基礎賃金を計算する必要があります。
一般的な月給制の場合には、以下の計算で基礎賃金を算出します。
具体例
月給35万円、1日の所定労働時間8時間、年間の勤務日数250日の労働者の場合
たとえば、月給30万円、1日の所定労働時間が8時間で1年間の勤務日数が246日の場合、1時間当たりの基礎賃金は、1,829円になります。
35万円 ÷(8時間 × 250日 ÷ 12か月)=約2,100円
なお、月給には、以下のものは含まれません。
・ 通勤手当
・ 別居手当
・ 子女教育手当
・ 住宅手当
・ 臨時に支払われた賃金
・ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
(ウ)割増賃金
法定時間外労働をさせた場合には、1時間あたりの基礎賃金に労働基準法所定の割増率を掛けた割増賃金を支払わなければならないとされています。
法定時間外労働の場合の割増率は、1.25倍とされています。
フレックスタイム制とは

フレックスタイム制とは、労働者が日々の始業・就業時刻を自由に決定して働ける制度のことをいいます。
フレックス制を導入するためには、あらかじめ就業規則で規定をし、労使協定を締結する必要があります。
フレックスタイム制は、労働者の自主性に委ねられる部分が大きいです。
柔軟な働き方を可能にすることで、残業の軽減や優秀な人材の定着といったメリットがあります。
フレックスタイム制で残業代の支払いが生じる場合とは、あらかじめ決められた総労働時間を超え、さらに法定労働時間も超えた場合です。
残業代計算の具体例
1時間当たりの基礎賃金3,000円、清算期間は1か月の場合に、ある労働者が清算期間28日(法定労働時間の総枠160時間)総労働時間が158時間と定められた月に165時間働いたとします。
この場合の残業代はいくらになるでしょうか。
計算方法
この場合、法定労働時間の枠である160時間を超えた5時間分が法定時間外労働になり、割増賃金の支払い対象になります。
なお、158時間を超えて160時間までの部分については、法定時間内労働のため割増賃金の支払いは不要ですが、通常の1時間当たりの賃金を支払う必要があります。
割増賃金:3000円 × 5時間 × 1.25(割増率)=1万8,750円
法定労働時間の総枠を超えて労働したかどうか
フレックスタイム制の場合、通常の労働時間制のように1日8時間を超えたかどうかで残業代を計算するのではなく、清算期間に対応する法定労働時間の総枠を超えて労働をしたかどうかによって残業代を計算することになります。
フレックスタイム制は、労働者が出勤・退勤時刻を決めるため、残業代は生じないと誤解されやすいです。
実際には、フレックスタイム制でも残業代は生じます。
支払われた残業代が正確な金額かどうか、1度計算してみるとよいでしょう。(執筆者:弁護士 山本 静人)