【読者の質問】
記事を興味深く拝見しました。現在、私は60歳で再任用で教諭をしています。
長生きしないであろうと思って年金の「繰上げ受給」をしようと考えています。
2022年4月以降に給料と年金をダブルでもらおうと思っていますが、給料や賞与の数値が手取りなのか、税金等が引かれる前の額面なのかが分かりません。
ご回答のほどよろしくお願いいたします。
【私の回答】
給料と年金をダブルでもらった場合の年金の支給停止は、手取りの給料ではなく額面の給料を参考にしたほうがよいと思います。
また、正確な結果を知りたい場合には、ねんきん定期便を開いて「標準報酬月額」と「標準賞与額」という部分を確認してください。
読者の方と以上のようなやりとりをしました。
この回答に関する詳しい解説をしていきます。
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目次
働くと支給停止になるのは「老齢厚生年金」
読者の中には、年金を早く受給できる「繰上げ受給」を利用して2022年4月以降に年金を受給した場合に、このような制度で年金が支給停止になるのを心配している方もいるのではないかと思います。
「在職老齢年金」で年金の一部または全部が支給停止になるのは、60歳以降も厚生年金保険に加入している場合です。
加入の上限年齢である70歳を過ぎた後も働きながら年金を受給する場合には注意する必要があります。
からです。
読者の方の労働条件は分かりませんが、たとえば労働時間が短く、厚生年金保険の加入要件を満たしていない場合には、年金は上記のように支給停止にはなりません。
また、在職老齢年金で支給停止になるのは、原則は
・ 経過措置で60~64歳(生年月日によって変わる)から支給される「特別支給の老齢厚生年金」
だけです。
給与とダブルでもらっても支給停止にならない年金
つまり、支給停止の対象は厚生年金保険から支給される老齢年金だけなので、次のような年金は給料とダブルでもらっても支給停止になりません。
・ 障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金)
・ 遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金、寡婦年金)
なお、公務員が加入する共済年金は2015年10月に厚生年金保険に統合されたため、退職共済年金(老齢厚生年金に移行)の上乗せとして支給されていた職域加算は統合時に廃止されました。
ただし、2015年9月までの期間を元に算出された職域加算は経過措置として支給されます。
この経過措置の職域加算は公務員在職中には全額が支給停止になりますが、民間企業や私立学校に在職中には全額が支給されるようです。
2022年4月から65歳未満の停止基準が変わる
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在職老齢年金で支給停止になるのは、上記のように原則は
・ 65歳から支給される老齢厚生年金
・ 60~64歳から支給される特別支給の老齢厚生年金
ですが、65歳を境にして停止基準が変わります。
65歳未満
65歳未満の場合には、「特別支給の老齢厚生年金 ÷ 12」と「(月給 + 過去1年分の賞与)÷ 12」の合計が支給停止基準額の28万円を超えると、特別支給の老齢厚生年金の支給停止が始まります。
65歳以上
一方の65歳以上の場合には、「老齢厚生年金 ÷ 12」と「(月給 + 過去1年分の賞与)÷12」の合計が支給停止基準額の47万円を超えると、老齢厚生年金の支給停止が始まります。
2022年4月~は年齢による境なし
しかし、2022年4月からは65歳未満も支給停止基準額が47万円になるため、65歳未満と65歳以上の違いがなくなります。
また、年金を早く受給できる「繰上げ受給」を利用した際の減額率が、2022年4月からは0.4%(現在は0.5%)に引き下げられます。
たとえば、原則65歳から受給できる老齢基礎年金や老齢厚生年金を「繰上げ受給」の上限となる60歳から受給した場合、現在は30%(5年×12か月 × 0.5%)減額されます。
一方で、2022年4月からは、24%(5年 × 12か月 × 0.4%)の減額となるため、以前よりは「繰上げ受給」を利用しやすくなると言えます。
正確な数値の算出:厳密には「標準報酬月額」と「標準賞与額」を使用
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読者の方が2022年4月以降に給料と年金をダブルでもらおうと思っているのは、前述のような改正が実施されるからだと思います。
また、給料と年金をダブルでもらう場合には、在職老齢年金で年金が支給停止にならないのかが心配になってくるところです。
そこで、給料と年金の合計が47万円を超えるか否かを判断する際に「手取りの給料(税金などが引かれた後)と額面の給料(税金などが引かれる前)のどちらを使うのか」という疑問が生じたのかもしれません。
「手取りの給料ではなく額面の給料を参考にしたほうがよい」というのがこの疑問に対する回答です。
ただし、厳密には次のように
【65歳未満の停止基準】
「特別支給の老齢厚生年金 ÷ 12」と「(標準報酬月額 + 過去1年分の標準賞与額)÷ 12」の合計が28万円(2022年4月からは47万円)を超えると、特別支給の老齢厚生年金の支給停止が始まります。
【65歳以上の停止基準】
「老齢厚生年金 ÷ 12」と「(標準報酬月額 + 過去1年分の標準賞与額)÷ 12」の合計が47万円を超えると、老齢厚生年金の支給停止が始まります。
すなわち、正確な結果を知りたい場合には「標準報酬月額」や「標準賞与額」を自分で算出する必要があります。
「標準報酬月額」と「標準賞与額」を知るには
ただし、誕生月(1日生まれは誕生月の前月)に送付される
ので、これが手元にあれば自分で算出する必要はありません。
また、4月~6月に勤務先から支払われた額面の月給の平均額をもとにして算出された標準報酬月額は、月給の金額に大きな変動がなければ、その年の9月から翌年の8月まで適用されます。
したがって、繁忙期に残業代が増えて給料と年金の合計が一時的に28万円(47万円)を超えても年金はすぐに支給停止にはなりません。
給料と合わせる年金の中に老齢基礎年金は含めない
しかし、給料と年金の合計が28万円(47万円)を超えるかを判断する際には「老齢基礎年金 ÷ 12」は含めません。
こういった事情などがあるため、給料と年金の合計が47万円を超えるケースはかなり少ないと思います。
そのため65歳未満の支給停止基準額が28万円から47万円に引き上げされた後は、在職老齢年金による年金の支給停止をあまり心配する必要はありません。
年金の支給停止が気になる場合「ねんきんネット」に登録
それでも気になるという方は「ねんきんネット」に登録してみるのがよいと思います。
「ねんきんネット」で60歳以降に想定される給料の金額などを入力すると「在職老齢年金」が適用された場合の年金額が自動的に試算されるため、事前に給料の金額を抑えるなどの対策を考えられるからです。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)