後期高齢者の医療費に関しては自己負担を抑えるため、窓口負担割合が原則1割になっており、現役世代のように3割負担するのは一部の高所得者に限定されています。
少子高齢化社会に伴う医療費増大に伴い、高齢者の負担割合を引き上げていくことは長年の課題になっておりました。
首相官邸の全世代型社会保障検討会議や厚生労働省の社会保障制度審議会医療保険部会で審議が進み、2020年(令和2年)12月15日には2割対象者の線引きを盛り込んだ「全世代型社会保障改革の方針」が閣議決定されました。
衆議院の任期が2021年10月21日までで、近く総選挙が確実に行われる政治的情勢から、与党関係者からは2割対象者の拡大に対して先送りの要求もありました。
そのような経緯もあり、マスメディアにおいて医療費負担の報道や特集が相当量なされたことから、国民の注目が高まっている話題と言えます。
現行制度では1割・3割の線引きはどうなっているのか、今後どのレベルの所得を2割対象者といくのかについて解説します。
報道では年収200万円以上という数字が前面に出ておりますが、要件を細かく見ていくと、実際はもっと限定的です。
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目次
現行の自己負担割合:原則1割・高所得者3割
75歳以上の後期高齢者は原則1割ですが、「現役並み」とされる一部の高所得者は3割負担です。
世帯内にいる後期高齢者医療保険加入者の住民税課税所得が145万円以上になると、3割負担の対象者になりえます。
3割負担は世帯年収要件もあり限定的
ただし、課税所得145万円以上の加入者がいたら直ちに3割というわけではありません。
世帯内加入者の合算年収要件もあり、年間世帯収入520万円(単身世帯は383万円)以上という条件も満たして3割負担者になります。
これは目安の年収ではなく、源泉徴収票の「支払金額」や確定申告書の収入金額を指しますので注意しましょう。
住民税課税所得要件に加え世帯年収要件も加わり、3割負担者は限定されています。
所得要件5案から課税所得28万円以上を2割へ
2割対象者に関しては、主に本人の課税所得要件で設定することが検討されました。
11月19日に開催された社会保障制度審議会医療保険部会の会合で、要件5案が示されました(部会資料:後期高齢者の窓口負担の在り方について)。
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A案が最も対象者が狭く、E案が比較的低所得でも2割負担となるケースです。
E案だけは課税所得の基準ではなく、住民税の所得割(所得に応じた税額)がかかる範囲とされています。
12月初旬においては、この5案のうち政府はD案(課税所得0円超・年収170万円以上)を主張、公明党は対象者が最も少ないA案(課税所得64万円以上・年収240万円以上)を主張し対立しました。
結局12月9日の首相・公明代表会談を経てC案(課税所得28万円以上・年収200万円以上)で妥協し、14日に全世代型社会保障検討会議の最終報告に盛り込まれ、15日に閣議決定されました。
変更開始時期は2022年10月1日~2023年3月1日の間で後日決定され、また変更後3年間は月間の外来医療費負担が3,000円超増えないよう激変緩和措置が取られる見込みです。
2割負担にも世帯年収要件(単身で200万円以上)設定へ
こちらも課税所得28万円以上の加入者がいたら直ちに2割というわけではなく、年間世帯収入320万円(単身世帯は200万円)以上という条件も付加する方向です。
扶養・保険料など控除の申告を
課税所得が基準となるのであれば、10種類を超える所得控除をきちんと申告しておくことで、所得税額・住民税額のほか医療費負担を下げることにつながります。
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ふるさと納税などの寄附金税額控除、住宅ローン控除・配当控除・外国税額控除は含まれません。
被災した際の税軽減を活用する場合、(少なくとも住民税では)雑損控除を選択すると課税所得が下がります。
寡夫控除が廃止されひとり親控除が新設された2020年以降も、寡婦控除は主に高齢の女性向けに残りましたので、控除漏れのないように注意しましょう。
また事業・不動産・株・FXで生じた繰越損失をきちんと申告しておくことも重要です。(執筆者:石谷 彰彦)