昨今、働き方が多様化して必ずしも企業に雇用されて働くことのみではなくなってきました。
フリーランスを始めとして、派遣、マルチジョブホルダー、起業など多くの働き方が存在します。
たとえば、個人事業主から数年後に法人化して事業を営むといったケースもありますが、夫が代表取締役で妻が取締役に就任するなど、夫婦で要職に就く場合には年金制度においてどのような点に留意すべきなのでしょうか。

目次
法人化することで起こる変化
年金制度の視点で解説すると、個人事業であり、「厚生年金の任意適用業種」(たとえば飲食店)である場合については「厚生年金」への加入義務はありませんが、法人化すると「厚生年金」への加入が義務になります。
ゆえに、選択の余地がなくなるということです。
被保険者資格取得
先の例に従って法人化することで、この夫婦は必然的に「厚生年金」の被保険者になります。
労働法の中の雇用保険では、代表取締役はそもそも使用従属関係にないことから「雇用保険」の被保険者にはならず、取締役は実態で判断するのが基本です。
一方、社会保険諸法令である「厚生年金」では、代表取締役(当然、取締役も)であっても働く限りは70歳を上限として被保険者なのです。
働いている方の被保険者の資格取得期間を確認しましょう。
【健康保険】上限74歳(75歳からは後期高齢者医療制度へ移行)
【雇用保険】年齢の上限は特にありませんが、65歳誕生日の前々日までの退職と65歳誕生日の前日退職では給付額に大きな差が生じることから1つの目安にされる方も多くいます。
なお、「健康保険」などとは異なり「労災保険」にはそもそも被保険者という概念がありません。
労働者目線では労働者である間に業務災害が発生すれば労災保険からの保護の対象という理解です。
夫婦で報酬を入れ替えた場合のリスク
「在職老齢年金」対策として、たとえば「年上かつ妻より高収入である夫が妻と報酬を入れ替えて年金を受給できるようにする」という選択をしたとします。
それにはどのようなリスクがあるのでしょうか。
短期的には年金を受給できるというメリットがあります。なお、報酬を下げた場合にいつから年金を受給できるようになるのかはこちらの記事をご参照ください。
報酬を下げたからと言ってすぐに年金を受給できるようになるわけではありません。端的には報酬を引き下げて4か月目以降の年金からが給付の対象となり得ます。
そして、今回のメインテーマであるデメリットは、高収入である夫の収入を妻に移転させたケースで夫が他界した場合にあります。
この場合、妻は夫との生計維持関係(年収850万円未満・所得655.5万円未満)を否定される可能性が極めて高く、「遺族厚生年金」が全く支給されないという事態に発展するリスクがあるのです。
代表取締役や取締役としての報酬は会社に残っている間は続くことでしょう。しかし、その報酬は引退後も続く報酬ではありません。
しかし、
となり得るのです。
また、おおむね5年以内に年収が基準額を下回ることが予想できる場合には、就業規則などを添付することで認められる場合もありますが、そもそも役員であることから通常の従業員とは異なり、就業規則に定年を定めていないケースがあるのです。
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年金制度を長期的な視点で見て考える
前述までの記述は夫が代表取締役、妻が取締役という前提で進めてまいりました。しかし、逆のケースもあります。
結果的に夫が「遺族厚生年金」を受給できるとなった場合には妻が受給する際には要件ではなかった「年齢55歳以上(実際の受給開始は60歳到達月の翌月から)の要件」ということもあります。
年金制度は短期的な視点だけではなく、長期的な視点も意識することが大事と考えます。(執筆者:社会保険労務士 蓑田 真吾)