相続税にはいろいろな節税方法や特例制度があります。
対策を講じることで相続税の納税額を抑えることも可能です。
しかし相続税対策をやり過ぎてしまうと、相続税の支払いや相続以降の手続きで問題になるケースもあります。
過度の相続税対策をした際に起こる問題点を紹介します。

目次
相続財産をすべて不動産にすると納税資金が不足する
相続税対策の1つに、財産を現金から土地に変更する方法があります。
相続税の土地評価額は路線価を用いるのですが、路線価の金額は公示価格(時価相当額)の80%程度とされています。
そのため相続財産の現金を土地にすることで、相続税評価額を20%相当圧縮できるのが不動産を活用した節税術です。
注意点として、相続税は申告期限までに現金で一括納付しなければならないため、相続財産をすべて不動産にしてしまうと、納税資金が不足する可能性があります。
相続人の自己資金で相続税を支払う選択肢もありますが、相続税額が数百万円になると相続人の預金だけでまかなうことは難しくなります。
また不動産を取得した際は相続登記が必要ですし、固定資産税は毎年必要になるため、維持管理のことまで考えないといけません。
不動産の共有名義は運用・処分が大変になる
遺産分割は相続人が合意していれば、誰がどの財産を取得しても問題ありません。
相続人が子だけの場合、平等に財産を相続するために、不動産も持分登記することも可能です。
しかし複数人で不動産を所有すると、不動産の管理や運用方法は所有者全員の同意が必要になるので注意してください。
1人の所有者が売却したい場合でも、もう1人の所有者が売却に反対すれば、その不動産を処分できません。
所有者が複数人いる不動産の購入を避ける人もいるため、不動産を売るとしても買い手が付きにくくなる可能性もあります。
そのため不動産を資産としてうまく運用するのであれば、単独相続できるように遺産分割する必要があります。

配偶者が全部の相続財産を取得した
相続税の特例制度で有名なのが、配偶者の税額の軽減制度です。
配偶者の税額の軽減制度は配偶者が取得した財産が1億6,000万円以下であれば、配偶者は相続税を支払う必要がなくなるため、非常に節税効果の高い特例です。
たとえば亡くなった人の財産が1億6,000万円以下の場合、配偶者がすべて遺産を取得すれば相続税を0円にできます。
ただ全財産を相続した配偶者が亡くなった際は、配偶者が相続した財産と配偶者自身の財産を合計した財産が相続税の課税対象となり、再婚していない限り配偶者の相続時に配偶者の税額の軽減は適用できません。
したがって一次相続の税額を抑えるために相続財産を1人に集中させると、二次相続で多くの相続税を支払うことになる可能性もあります。
相続税の安くなる方法が最適解とは限らない
相続税の節税は、亡くなった人の財産の種類や相続人の人数、経済状況によって手段が変わります。
節税を重視するし過ぎると、相続後の資産管理や運用が難しくなったり、偏った相続財産の分配により相続人間で争いが発生すると、裁判費用がかかってしまう可能性もあります。
相続税対策をする際は専門家に相談し、家庭ごとに最適な節税方法を見つけてください。(執筆者:元税務署職員 平井 拓)