日銀が発表した「2020年第4四半期の資金循環(速報)」によると、家計が保有する金融資産の2020年12月末時点の残高は、1,948兆円に達したそうです。
参照:日本銀行調査統計局「参考図表 2020年第4四半期の資金循環(速報)(pdf)」
これは前年同期よりも2.9%増加という結果で、過去最高を更新しました。
家計が保有する金融資産の内訳を見てみると「現金・預金」が1,056兆円になっています。
つまり、家計が保有する金融資産の半分ほどは101兆円の「現金」(自宅の中にあるタンス預金など)と、955兆円の「預金」です。
また、「現金・預金」は前年同期よりも4.8%増加という結果になっていて、こちらも残高が過去最高を更新しています。
前年同期比で最も残高が増えたのは5.1%増加の「投資信託」です。
どのような投資信託なのかは分かりませんが、5.1%も増加している点から考えると、株式が組み入れられた投資信託ではないかと考えられます。
そうなると「株式等」の残高も同じくらいに増加していると思ったのですが、わずか0.7%の増加にとどまっているのです。
こういった結果から考えると、株式を頻繁に売買するよりも地道に投資信託で積立したほうが資産が増えそうな気がするのです。
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目次
「現金・預金」残高が過去最高を更新した理由
家計が保有する「現金・預金」は前述のように残高を増やし続けていますが、特に「現金」は初めて100兆円を超えて過去最高を更新しました。
これだけ「現金・預金」が増えたのには、次のような短期的な理由と長期的な理由があると考えられます。
短期的な理由
日本においても2020年の初め頃から新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な問題になっています。
これによって外出を自粛する必要があったためATMの利用頻度を以前より減らして、1回あたりに多めの金額を引き出したことが「現金」が増えた短期的な理由のひとつとして考えられます。
また、外出の自粛によってお金を使う機会が減ったことも、影響を与えていると思うのです。
一方で「預金」が増えた短期的な理由のひとつには、新型コロナウイルスの影響を受けた家計を支援するために支給された1人10万円の「特別定額給付金」だと考えられます。
長期的な理由
2016年1月に日銀が「マイナス金利政策」の導入を発表した辺りから、預金金利が一段と低下したために銀行にお金を預ける必要性が薄れました。
これに加えて政府がマイナンバーを活用して国民の預金額を捕捉するのではないかという疑念が生じたことが、「現金」が増えた長期的な理由と考えられます。
一方で、「預金」が増えた長期的な理由のひとつは、日本社会の高齢化ではないかと思うのです。
「知るぽると」の中にある「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査] 令和元年調査結果」を見てみると、金融商品(預貯金、保険、有価証券、その他金融商品)の平均保有額が、年代別に紹介されていす。
これによると金融商品の平均保有額は
30歳代:529万円
40歳代:694万円
50歳代:1,194万円
60歳代:1,635万円
70歳以上:1,314万円
となっています。
また、50歳代以上になると、金融商品の平均保有額が一気に上がっているため、日本社会が高齢化していくと必然的に「預金」の残高が増加するのです。
「現金・預金」が増えて懸念される点
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このように「現金・預金」が増えるのは、家計にとっては良いことばかりのように思えますが、次のような3つの点が懸念されるのです。
1. 介護保険施設入所時の自己負担が増える
介護保険施設に入所した際、または短期入所サービス(ショートステイ)を利用した際の、食費、居住費、日常生活費は、原則として自己負担です。
しかし、次のような要件を満たす方が申請した場合には、食費と居住費について年金収入などに応じた自己負担の限度額が設定されるため、それ以上の負担をしなくてもすむのです。
・ 資産の合計が単身の場合には1,000万円、配偶者がいる場合には2,000万円以下であること
後者の資産の中には「現金・預金」を含めるため、これらの合計が1,000万円や2,000万円という基準を超えると自己負担の増加が懸念されるのです。
なお「現金・預金」だけではなく、有価証券(株式や国債など)、金や銀(積立購入を含む)、投資信託なども資産の中に含めます。
一方で、生命保険は資産の中に含めないため、1,000万円や2,000万円という基準を超えないように生命保険に加入するという対策を検討しても良いと思うのです。
ただし、1,000万円という基準は、将来的には年金収入などに応じた3つの基準(500万円、550万円、650万円)に変わるため、対策を講じても無意味になる可能性もあります(配偶者がいる場合の1,000万円の加算は、今後も継続されるようです)。
2. 相続税の課税対象になる方が多くなる
被相続人(亡くなった方)の財産を相続で受け継いだ際に、その財産の総額が相続税の「基礎控除額」を超えている場合には相続税が課される可能性があります。
この基礎控除は「5,000万円 + 1,000万円 × 法定相続人の数」だったのですが、2015年1月から「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」に引き下げられたため、相続税の課税対象になる方は以前より増えています。
また、「現金・預金」は銀行などに預けてある残高がそのまま相続税評価額になるため、時価よりも相続税評価を下げられる不動産(土地、家など)と比較すると不利になってしまうのです。
こういった背景から、「現金・預金」が増えていくと相続税の課税対象になる方がさらに多くなるかもしれないという懸念があるのです。
ただし、相続税評価額を下げるために借金をして不動産経営を始めるというのはリスクが高いような気がします。
従って、
・ 終身型の死亡保険に加入して「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠を活用する
などの対策を、検討したほうが良いと思います。
3. インフレで購入できるものが少なくなる
タンス預金などの「現金」には利息が付かないため、インフレ(物価が継続的に上昇する状態)に弱いという欠点があります。
また、日本はデフレ(物価が継続的に下降する状態)が続いていますが、新型コロナウイルスの感染拡大への経済対策の実施によって財政赤字が拡大しているので、インフレになるリスクが高まっているのです。
もし、実際にインフレが発生した場合には、家計が保有する「現金」で購入できるものが以前より少なくなってしまうという懸念があるのです。
保有する「現金」を増やす予定があるのであれば、すぐに使う予定がない「現金」をインフレに強い金融商品に変えておくのです。
インフレに強い傾向があり、かつ「現金」のように手元に置いておける金融商品には、金(例えばゴールバー、金貨など)があります。
金の売却代金が200万円を超えると、マイナンバーカードや通知カードなどのマイナンバーの分かるものが必要です。
一方で、売却代金が200万円以下であればこれらが必要ないため、資産の一部の中に金をコツコツと組み入れていって、少しずつ売却するのが良いと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)