新型コロナウィルスの感染拡大で急速に進んだ在宅勤務ですが、自宅の電気や通信環境を使用するため、従業員側ではどうしても光熱費や通信費がかさんでしまいます。このため、在宅勤務手当を支給する企業があります。
この在宅勤務手当に関しては、2020年の段階では実費相当額を支給しない限り、所得税・住民税の課税対象であること、そして企業側が実費相当額を算定するのは困難ではないかということを説明しました。
しかし2021年に入って、国税庁が在宅勤務費用や手当に関する課税の取り扱いを公表(在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係) )し、実費相当額算定の一例を示しています。
目次
レンタルオフィス代の実費精算は非課税
いわゆる在宅勤務手当に入る前に、自宅に近いレンタルオフィスを使って出社せず、そのレンタルオフィス代が会社から支給されたケースについて説明します。
レンタルオフィス代を立て替え払いし、領収書などの明細に基づいて会社から実費が支給された場合、その支給額は所得税・住民税が非課税です。
パソコンの貸与は非課税、支給は給与所得
こちらの話題も在宅勤務手当ではありませんが、在宅勤務で使用するパソコンを会社側が用意することがあります。
現物支給される場合、貸与の形で退職後などに返還を求めるのであれば非課税ですが、返還の必要がない場合は、お金としてもらわなくても現物給与としてパソコン代の分が課税されます。
通信費の非課税支給額
いよいよ本題の在宅勤務手当に入りますが、在宅勤務を行うには会社と通信を行える環境が欠かせません。インターネット通信費に関しては、例えば下記のように計算した形で支給すれば実費相当額とみなされ所得税・住民税は非課税です。
1か月の通信費 ×(在宅勤務日数 ÷ 1か月の日数)× 1/2
この通信費には在宅業務と関係ない私的な通信費も含まれると想定されるため、(在宅勤務日数 ÷ 1か月の日数)で在宅勤務の日数だけ切り分けています。
さらに1/2というのは、睡眠時間8時間・勤務時間8時間・勤務外の起きている時間8時間と考えて、起きている時間の1/2を勤務に費やしている想定です。
電話代の基本使用料もインターネット通信費と同様
電話代に関しても、基本使用料は上記の算式で実費相当額を計算します。
なお通話料に関しては、明細書の通話時間・相手先電話番号から、例えば上司と部下の通話であることがわかるものであれば、その部分の通話料を計算式使わず実費にできます。
合理的な算出方法であれば他の方法でも認められる
国税庁は、あくまでも合理的な算出方法に基づいて支給すれば非課税としております。
(在宅勤務日数 ÷ 1か月の日数)や1/2はやや粗い想定ではあるので、8時間の想定勤務時間を変えるなどをしても認められると考えられます。
在宅クラウドワーカーの必要経費算定にも役立つと考えられる
クラウドソーシングなど在宅のネット環境で業務を受注し行う場合は、通信費が事業所得または雑所得の必要経費になりますが、必要経費に業務で使う部分と私的な部分が混在する場合は、業務使用割合を見積もり通信費にかけて必要経費にすることも考えられます。
この必要経費にする額に関しては、次に説明する電気代にも言えますが、在宅勤務手当の非課税額計算が参考になります。在宅ワークの場合、例えば(在宅勤務日数 ÷ 1か月の日数)を時間数ベースにするなど、計算方法を変更することも考えられます。
電気代の非課税支給額
電気代についても、合理的に在宅勤務の電気代相当額を支給すれば非課税としておりますが、通信費とは異なる計算式を国税庁が示しています。
1か月の電気代 ×(業務使用床面積 ÷ 自宅床面積)×(在宅勤務日数 ÷ 1か月の日数)× 1/2
×(業務使用床面積÷自宅床面積)が追加されています。コロナ禍の新築住宅では在宅ワークスペースを設けたものもありますが、床面積基準で在宅ワークとして使用している分だけ、在宅勤務の電気代になるという考え方です。
一律定額支給は課税される
すでに企業が支給している在宅勤務手当は、例えば全従業員に月額3万円という形で、一律定額支給する形がよく見られます。
上記の算式であっても、実際に会社側が計算しようとすれば、各従業員から電気代・通信費の明細書のほか住居の床面積まで把握する必要があり、煩雑なだけでなくプライバシーの問題もあります。このため、一律支給せざるを得ないという事情もあります。
しかし一律支給の仕方ですと、この3万円は課税対象になります。ある従業員について、上記の通信費・電気代相当額が3.5万円となるから3万円だけ支給しても非課税となるわけではなく、3万円全額が課税対象になります。
ただし一旦3万円を仮払いし、従業員からの領収書等をもとに0.5万円追加支給して実費精算するのであれば、実費相当額の支給なので非課税です。
源泉徴収票の「支払金額」に含まれ年末調整の対象
ただ課税になるといっても給与として課税されるのであり、これは通勤手当以外の諸手当と同じ扱いです。給与所得の源泉徴収票にある「支払金額」は、課税対象の給与が全額記載され、本業の課税対象給与に関しては年末調整で所得税額が精算されます。
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課税されることで手取りが増えなくなりますが、在宅勤務手当だけが原因で確定申告が求められることはありません。(執筆者:石谷 彰彦)