60歳以降の働き方に影響を与える二つの改正が、2021年4月から企業に対して適用されるのです。
そのひとつは同じ企業の中で、同じ仕事をしている場合には、その雇用形態にかかわらず、同額の賃金を支払うという、「同一労働同一賃金」になります。
大企業に対しては2020年4月から、この同一労働同一賃金が適用されております。
一方で常時使用する従業員数、または資本金の額(出資の総額)が、一定以下の中小企業に対しては、2021年4月から適用されるのです。
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なぜ同一労働同一賃金というルールが、60歳以降の働き方に影響を与えるのかというと、多くの企業は60歳で定年を迎えた後に、引き続き働きたい方を、65歳くらいまで再雇用しております。
また再雇用された後は、60歳前と同じような仕事をしている場合でも、賃金が大幅に下がってしまうのが一般的でした。
同一労働同一賃金が適用されると、このような取り扱いが難しくなるため、60歳以降の働き方に影響を与えるのです。
もうひとつの改正は、「70歳までの就業機会の確保」が、企業の努力義務になるというものです。
あくまでも努力義務になりますが、こちらは企業規模にかかわらず、2021年4月から適用されます。
70歳までの就業機会を確保するために、企業が実施した方が良い措置としては、
「70 歳までの継続雇用制度(再雇用制度、勤務延長制度)の導入」
「定年年齢の70 歳までの引き上げ」
があります。
また労働者の過半数を代表する労働組合などの同意があれば、
「事業主が自ら実施する社会貢献活動に70歳まで参加させる」
などの、雇用以外の措置も実施できるのです。
目次
社会保険に加入する企業規模の要件が引き下げられる
同一労働同一賃金と70歳までの就業機会の確保により、2021年4月以降は70歳くらいまで、60歳前と待遇が大きく変わらずに、働ける可能性があります。
ただ健康の問題や家族の介護などにより、短時間や短日数の勤務を希望する方もいるはずです。
こういった時には健康保険や厚生年金保険などの、「社会保険」に加入するか否かが、ポイントになってくると思います。
また現在は次のような要件をすべて満たすと、健康保険は75歳になるまで、厚生年金保険は70歳になるまで、加入する必要があります。
・ 1か月あたりの賃金(賞与、通勤手当、残業手当などは除く)が、8万8,000円(年収だと約106万円)以上であること
・ 1年以上雇用される見込みがあること
・ 学生ではないこと
・ 従業員数が501人以上の企業、または社会保険に加入することについて労使(労働者と使用者)の合意がある、従業員数が500人以下の企業で働いていること
以上のようになりますが、現在は従業員数が500人以下の企業で働いていると、他の要件を満たしても、社会保険に加入しない場合が多いのです。
しかし2022月10月以降になると、従業員数が101人以上の企業で働いている場合も、社会保険に加入するようになります。
また2024月10月以降になると、従業員数が51人以上の企業で働いている場合も、社会保険に加入するようになるため、将来的には企業規模の要件が、かなり引き下げられるのです。
社会保険料を算出する際は年金収入を含めない
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60歳で定年を迎えた後に再雇用された方の、公的医療保険の選択肢としては、主に次のようなものがあると思います。
(2) 市区町村と都道府県が運営する国民健康保険に加入する
(3) 勤務先の健康保険に加入する
この中の(1) だけは、75歳になって後期高齢者医療に加入するまで、公的医療保険の保険料を負担する必要がないため、60歳以降に賃金が大幅に低下した場合には、もっとも検討したい選択肢になります。
それに対して(3) を選択すると、70歳までは厚生年金保険にもセットで加入する必要があるため、両者の保険料の分だけ手取りが減ってしまうのです。
そのため国民健康保険だけに加入できる(2) の方が良さそうですが、個人的には(3) の方が良いと思います。
この理由としては、原則65歳になると厚生年金保険から支給される「老齢厚生年金」が増えるというだけでなく、保険料の算出方法の違いなどによって(2) よりも(3) の方が、家計の節約になる場合があるからです。
例えば国民健康保険に加入する世帯の、世帯主が負担する保険料は、「給与収入+年金収入(企業年金やiDeCoなどの私的年金も含む)」を元にして算出します。
また国民健康保険には扶養という考え方がないため、配偶者を扶養している場合でも、「配偶者の給与収入+配偶者の年金収入」を元にして算出した、配偶者の分の保険料も負担する必要があるのです。
その他に国民健康保険の加入者数に応じた「均等割」を、負担する必要があり、地区町村によっては1世帯あたり〇〇円という「平等割」も、負担する必要があります。
一方で健康保険と厚生年金保険の保険料は、自分の給与収入だけを元にして算出するため、年金収入はいくらであっても、保険料の金額には反映されないのです。
これに加えて扶養している75歳未満の配偶者を、健康保険の被扶養者にできれば、配偶者は公的医療保険の保険料を負担する必要がありません。
また扶養している20歳以上60歳未満の配偶者を、国民年金の第3号被保険者にできれば、国民年金の保険料も負担する必要がありません。
こういった保険料の算出方法の違いなどによる、複数のメリットがあるため、健康保険と厚生年金保険の保険料で手取りが減っても、国民健康保険の保険料を負担する時より、家計の節約になる場合があるのです。
副業の種類によっては稼ぎが増えても社会保険料が上がらない
現在は老齢厚生年金の支給開始年齢を、何年も期間をかけて、60歳から65歳に引き上げしているのです。
そのため厚生年金保険の加入期間が1年以上ある、1961年4月1日以前生まれの男性や、1966年4月1日以前生まれの女性は、生年月日に応じて60~64歳から、「特別支給の老齢厚生年金」を受給できるのです。
また繰上げ受給を選択すれば、原則65歳から支給される老齢基礎年金や老齢厚生年金を、最大で60歳まで前倒しして受給できます。
こういった点から考えると、年金収入を含めないで、健康保険や厚生年金保険の保険料を算出するという社会保険の仕組みは、65歳になる前からメリットがあるのです。
その他に副業として、フードデリバリーの配達員などの仕事を請け負う場合や、社会保険に加入する要件を満たさない程度に他社でアルバイトする場合にも、メリットがあると思います。
この理由として業務委託やアルバイトで得た収入は、健康保険や厚生年金保険の保険料を算出する際に、含めなくても良いからです。
つまり本業の給与収入だけで、健康保険や厚生年金保険の保険料が決まるため、副業で稼いでも保険料が上がらないのです。
そのため本業の月給を8万8,000円くらいにして、健康保険や厚生年金保険の保険料を少額だけ負担したうえで、副業で適度に稼ぎ、その間に年金を受給するというのが、効率の良い節約法になると思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)