海外に住んでいる人や海外資産を保有している人の中にはは、日本への申告義務があってもバレないと思ってしまう方もいるようですが、実情は異なります。
税務署を含む国税組織は、いろいろな方法を駆使して海外の情報を得ていますので、今回は情報の入手方法を紹介します。

目次
国税組織は本気で国際課税に力を注いでいる
経済が国際化していく状況下で、国税組織は国際的な税逃れ防止のために「国際戦略トータルプラン」として、情報の収集・分析と取組体制の整備・強化に力を入れています。
国税庁や国税局、そして税務署に国際課税担当の部署を設立し、専属で従事する職員を配置することで、人員的な面で国際的な税務調査を実施できる体制を整えています。
また、国内外から情報収集できるような仕組みを形成することで、納税者だけではなく他国からも情報提供を受けており、海外情報の把握量はひと昔前よりも確実に増えています。
納税者・金融機関に海外資産の情報を提出させている
一定以上の財産を保有している人は「財産債務調書」を提出しなければならず、海外資産保有者も「国外財産調書」の提出義務があります。
提出を怠ると税務調査が実施された際の罰則が重くなる一方で、調書を提出した人のペナルティーが軽減される措置もあるため、いかに海外資産の情報を集めるのに本気になっているかがお分かりいただけると思います。
また、金融機関も海外への送受金について法定調書の提出義務があり、100万円超の国外への送金および国外からの受金を把握した際には「国外送金等調書」を提出しなければなりません。
国外送金等調書の提出件数は2017事務年度で722万件もあり、税務調査を行う資料などととして活用されています。
他国と連携して海外資産の情報収集をしている

海外での取引実態や配当・不動産所得等に関する情報を収集するために、租税条約等に基く情報交換が行われています。
租税条約は、日本と相手国との間で結ばれた税に関する条約で、二重課税を回避する規定や脱税を防ぐために情報共有する内容などが盛り込まれています。
租税条約は国ごとで締結するため、たとえば対アメリカと対オーストラリアでは、租税条約の内容が異なるのも租税条約の特徴です。
また、CRS(※)情報の自動的情報交換による情報収集も実施されています。
CRS情報の自動的情報交換とは、自国に所在する金融機関等から非居住者が保有する金融口座情報の報告を受けた際に、その情報を租税条約等の情報交換規定に基き、非居住者の居住地国の税務当局に対して提供する制度のことです。
税務調査は税金漏れを把握しなければ基本的に実施されませんので、税金漏れの情報を把握することが何よりも重要です。
自動的に海外資産の情報を入手できれば情報収集する手間も削減できますし、調査対象者を詳細に調べることが可能になります。
※CRSはCommon Reporting Standard(共通報告基準)の略
今後は個人投資家も税務調査の対象になってくる
海外を利用した税逃れは富裕層だけだと思われる傾向にありますが、一般層にも広がっています。
たとえば個人投資家の場合、海外投資や企業における海外取引が増加している一方で、税知識が富裕層よりも豊富だとは言えないため、税金の申告漏れが発生しやすいと言えるのです。
知識不足による申告漏れも税務調査やペナルティの対象でので、節税する場合には法律の範囲内で行いましょう。(執筆者:元税務署職員 平井 拓)