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「支給額が不十分で老後の不安を解消できない…」老後の不安を解消できない3つの年金改正

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「支給額が不十分で老後の不安を解消できない…」老後の不安を解消できない3つの年金改正

社会保険(健康保険、厚生年金保険)の適用が、2016年10月に拡大されました。

そのため年収が106万円(正確には月額賃金が8万8,000円)以上などの、5つの要件をすべて満たす方は、社会保険に加入するようになったのです。厚生労働省は改正によって、新たに25万人の方が社会保険に加入すると試算していましたが、2016年12月時点で26.7万人の方が社会保険に加入していました。

社会保険に加入すると給与の手取りが減るのに、厚生労働省の試算を上回る方が社会保険に加入した理由のひとつは、老後の不安ではないかと思います。こういった問題などのために政府は、次のような3つの年金改正を実施したのですが、支給額が不十分だと思うので、老後の不安を解消できないと推測します。

老齢基礎年金と老齢厚生年金の計算方法

公的年金の保険料を納付した期間や、保険料の納付を免除された期間などの合計が原則10年以上ある方は、65歳になると国民年金から支給される老齢基礎年金を受給できます。

また老齢基礎年金の受給要件を満たしている方のうち、厚生年金保険の加入期間が1か月以上ある方は、老齢基礎年金に上乗せして老齢厚生年金を受給できます。

前者の老齢基礎年金は20歳から60歳になるまでの40年間に渡って、公的年金の保険料を欠かさずに納付すると、次のような金額の満額に達するのです。

【1956年4月2日以後生まれの満額】

2025年度額で83万1,700円(月あたり約6万9,308円)

【1956年4月1日以前生まれの満額】

2025年度額で82万9,300円(月あたり約6万9,108円)

例えば1956年4月2日以後生まれの満額を、満額の老齢基礎年金を受給するために必要な40年間(480月)で割ると、約1,732円(83万1,700円÷480月)になります。

そのため公的年金の保険料を1か月未納にすると、老齢基礎年金が約1,732円減るだけでなく、公的年金の保険料を1か月納付するごとに、老齢基礎年金が約1,732円増えるのです。このように受給できる老齢基礎年金の金額は、公的年金の保険料を納付した月数や、保険料を未納にした月数などで算出するため、収入が高くても低くても金額は同じです。

また厚生年金保険の加入者の配偶者(20歳以上60歳未満)が、年収130万円未満などの要件を満たして国民年金の第3号被保険者になると、この保険料を納付しなくても納付したことになります。

一方で後者の老齢厚生年金の金額は、厚生年金保険に加入していた時の給与(月給、賞与)の平均額と、厚生年金保険の加入月数で決まります。

そのため厚生年金保険に加入していた時の給与が高かった方や、厚生年金保険の加入月数が長い方は、受給できる老齢厚生年金が多くなるのです。

年金改正1:離婚時の年金分割

夫が厚生年金保険に加入する会社員で、妻が国民年金の第3号被保険者の場合、妻は厚生年金保険の加入月数が短いため、夫よりも受給できる老齢厚生年金が少なくなります。そうなると離婚した時に低年金になるため、婚姻期間中に夫が納付した厚生年金保険の保険料の一部を、妻が納付したことにする離婚時の年金分割が、2007年4月に始まりました。

また離婚時の年金分割は合意分割と3号分割に分かれますが、いずれも離婚した日の翌日から2年以内に、所定の手続きを実施する必要があります。年金分割が実施されると、夫が納付した厚生年金保険の保険料の一部を妻が納付したことになるため、妻は65歳から受給できる老齢厚生年金が増額します。

ただ厚生労働省が作成した資料によると、増額する老齢厚生年金の平均額は月3万円ほどになるため、離婚時の年金分割は支給額が不十分だと思うのです。

年金改正2:年金生活者支援給付金

所得が一定の基準以下の、基礎年金(老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金)の受給者の生活を支援するため、2019年10月に年金生活者支援給付金が始まりました。

例えば老齢基礎年金の受給者を対象にした、月5,000円ほどの老齢年金生活者支援給付金は、次のような3つの要件を満たした時に、老齢基礎年金に上乗せして支給されます。

  • 65歳以上で老齢基礎年金を受給している

  • 同一世帯の全員が市町村民税非課税

  • 前年の公的年金と他の所得の合計が、78万9,300円(1956年4月1日以前生まれは78万7,700円)以下である

所得が低い方の生活を支援するための制度としては、年金生活者支援給付金の他に生活保護があります。

年金受給者でも受給できる年金額が、地域、年齢、世帯人数を元にして算出した最低生活費を下回っている時には、所定の資産を保有する方などを除き、生活保護を受けられます。実際のところ生活保護を受けている世帯の過半数は、65歳以上の高齢者世帯なのです。

また老齢年金生活者支援給付金を受給できる方は、公的年金と他の所得の合計が上記のような金額以下になるため、最低生活費を下回っている可能性があります。年金受給者が生活保護を受けられた場合、最低生活費と年金(年金生活者支援給付金を含む)の差額が、生活保護費として支給されます。

これに加えて医療費を賄うための医療扶助、介護費用を賄うための介護扶助、葬儀費用を賄うための葬祭扶助などが支給されます。医療費が無料になる医療扶助だけでも、老齢年金生活者支援給付金の金額を上回る可能性があるので、年金生活者支援給付金は支給額が不十分だと思うのです。

年金改正3:繰下げできる上限年齢の引き上げ

老齢基礎年金と老齢厚生年金の受給開始を、65歳から1か月繰下げ(後ろ倒し)するごとに、年金額が0.7%増えるのです。受給開始を繰下げできる上限年齢は70歳でしたが、2022年4月の年金改正によって、1952年4月2日以後生まれの方であれば、75歳まで受給開始を繰下げできます。

これにより繰下げ受給の最大の増額率は、従来の42%(0.7%×12か月×5年)から、84%(0.7%×12か月×10年)に変わったのです。

ただ老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計が一定額以上になると、国民健康保険(後期高齢者医療)や介護保険の保険料、税金が天引きされるため、手取りは額面より10~15%くらい少なくなります。

しかも年金額が多くなるほど天引き額が増えるため、期待していたほどは受給できない可能性があるのです。

例えば老齢厚生年金を受給している夫が、公的年金の保険料を原則25年以上納付している場合、亡くなった時に妻などの所定の親族に対して、遺族厚生年金が支給されます。妻が受給できる遺族厚生年金の目安は、妻が受給できる老齢厚生年金が少ない場合、夫が受給していた老齢厚生年金の4分の3くらいです。

ただ遺族厚生年金を算出する時は、繰下げによって増額した老齢厚生年金に4分の3を乗じるのではなく、65歳時点の老齢厚生年金に4分の3を乗じます。

そのため受給開始の繰下げによって老齢厚生年金が増えたとしても、妻などの親族が遺族厚生年金を受給する段階になると、支給額が不十分だと思ってしまう可能性があるのです。65歳から受給開始までの待機期間中に、預貯金などの資産をかなり取り崩した方は特に、この点に注意する必要があると思います。

《木村 公司》
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木村 公司

執筆者:社会保険労務士 木村 公司 木村 公司

1975年生まれ。大学卒業後地元のドラッグストアーのチェーン店に就職。その時に薬剤師や社会福祉士の同僚から、資格を活用して働くことの意義を学び、一念発起して社会保険労務士の資格を取得。その後は社会保険労務士事務所や一般企業の人事総務部に転職して、給与計算や社会保険事務の実務を学ぶ。現在は自分年金評論家の「FPきむ」として、年金や保険などをテーマした執筆活動を行なう。 【保有資格】社会保険労務士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー2級、年金アドバイザー2級、証券外務員二種、ビジネス実務法務検定2級、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種 寄稿者にメッセージを送る

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